第四章 嫉妬(2)
3ヶ月ほど経った。
この日は、急な出勤となった。最近になってアルバイトが一人辞めたため、私の休みが返上されたのだ。
私も加代も、ほぼ毎日顔を合わせてはいるが、あれからの日々は忙しさに追われるまま、ただ淡々と過ぎていった。時折、目が合えばお互いに微笑みを交わすことがあったが、それ以外のやり取りはすべて業務連絡に終始していた。
もともとこのアルバイトは一時的なものと考えていたので、他の店員とも深く関わるつもりはなかった。この店限りの付き合いだと割り切っていたから、加代に対しても、表向きはあくまで淡々とした態度を崩すことはなかった。
そんな中、加代の指導係としての役割が一区切りを迎えた。新しい後輩アルバイトが入ったことで、加代がその指導役に任命されたのだ。その新入りアルバイトは、近所の高校に通う男子学生だった。加代は、私から教わったことを丁寧に後輩に伝えていた。彼女の教え方は、私のそれとは異なり、とても丁寧で親切だった。
「箸は、左に先が向くように置くんだよ。お客様が箸を取って持つときに、その方が使いやすいから…」 加代の説明を聞き、単にそうするものだと思っていた私も、なるほどと納得した。後輩もその説明をすぐに理解し、うなずいた。
加代は後輩ができたことでさらに真面目に仕事に取り組み、店の他のスタッフとも打ち解けていった。入ったばかりのころの内気さが消え、明るく生き生きとした姿が目立つようになった。
「加代ちゃん、彼氏いるの?」
調理場のスタッフの声が耳に入った。
「いえ、今はいないです。」
「そうなんだ。じゃあ、ゴハンに誘ってもいいよね。」
「ええ…。」
加代の控えめな返事に、私は少し胸がざわついた。恥ずかしがっているのか、それとも迷惑しているのか。だが、そのスタッフも加代と歳が近く、私が入り込む余地はないだろうと、意識を他に向けようとした。
「休みは水曜だったよね。」
「はい…。」
「今度の休み、予定ある?俺も休み取れそうだから、どこか行こうよ。」
「えっ。でも…。」
その会話を聞きながら、目が合った時に笑顔を交わしていた加代との距離が急に遠く感じられ、私はゴミ袋を持って店の裏へと向かった。嫉妬しているのだろうと、自分の気持ちを冷静に分析しながら、加代が他の店員と仲良くなることは当然で、彼女がこれから誰と付き合おうと、私には関係ないと思い込もうとした。




