第一章 再会(2)
一週間が過ぎた。
「大輔さん。今晩、食事、どうですか?」
絵美が小声で私に話しかけてきた。
絵美は、会社の同僚で大阪支店に勤務しており、東京支社で働く私とはあまり接点はないのだが、以前、東京出張の際に他の社員と居酒屋で居合わせてから、食事に行く程度の間柄になった。
私は絵美に、絵画を見る趣味があると話したことがあった。それがきっかけで懇意になり、私の好きな絵画の時代に興味を持っており、ヨーロッパの芸術的な文化が急激に広まり、その後の絵画に大きな影響を与えたと言っていた。
絵美の絵画に対する造詣が深く、残念ながら絵の名前すら覚えていない私は、単に「好き」か「あまり好きではない」の二つの感想しか言うことができない。しかし、私が観た絵の拙い説明で、絵美はその絵の名前を言い当て、絵美なりの感想を話してくれる。私は先生の講義を受けているように、ただ絵美の話を聞いているだけなのだが、そうして頷きながら黙って聞いている私が、絵美には丁度いい話し相手になっているようだった。
東京出張の際も、日程を合わせて週末に絡められれば、都内の美術館を見て回るらしい。当然、週末から東京に入り、月曜に出勤した時などは、月曜夜の絵美の独演会に強制参加させられる。知識レベルは絵美の一方的が勝利なのだが、共通の趣味の話ができる数少ない趣味の友人ということもあり、会社の中では最も親しい異性だと言える。
絵美と何度か食事に行くうちに、絵美の昔付き合った男性と私の苗字が同じだからという理由から、「大輔さん」と呼ばれるようになった。そのせいで、会社の同僚からは誤解を受けることもあり、それに気を遣っているのか、社内では小声で話しかけられることもあって、噂は輪を掛けることになっていた。
絵美からの食事の誘いに、私は承諾した。




