第三章 歓迎会(2)
この店では、入店から一カ月後に歓迎会を行うのが通例となっていた。アルバイトの入れ替わりが激しいため、すぐに辞めてしまった新人のために歓迎会を開くのは無駄だということから、少し落ち着いてから行う方が良いということになっていた。また、一緒に働く時間が長くなればなるほど、お互いの距離が縮まり、心から歓迎することができるという理由もある。
この日、加代の歓迎会が予定されていた。店内はいつも通りの忙しさを見せ、スタッフたちは仕事に追われながらも、夜に控えるイベントを心の片隅に置いていた。歓迎会は、ランチタイムに働くパートの主婦たちも一度帰宅してから再度参加する。時間帯の異なるアルバイト同士が集まる機会も少ないため、歓迎会はスタッフたちにとって楽しみな行事でもあった。
居酒屋の個室を貸し切り、既に到着していたスタッフたちは、少しずつビールや料理をつまみながら歓談を始めていた。「お疲れ様!」口々に和やかな声が飛び交い、店の慌ただしさとは対照的に、リラックスした雰囲気が広がっている。
二十二時が近づくと、加代の仕事が終わる時間が迫ってきた。私は厨房からホールへ向かい、カウンター越しに加代の様子を伺った。加代は忙しさの中でも、最後まで丁寧に仕事をこなしていた。私服に着替えた加代がホールと調理場を繋ぐカウンター越しに、「お先に失礼します」と店員たちに声をかける姿が見えた。その時、ふと加代の長い黒髪の間から、肩の辺りに大きな青痣が見えたのが目に留まった。
その青痣は、普段の制服では隠れていたため、全く気づかなかった。首筋まで少し開いた私服だからこそ、偶然目に入ったのだ。
加代の後ろ姿に「じゃあ、後から行くね。」と私は努めて明るく言い、加代を見送った。




