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涙があふれてあふれて、止まらない。顔を押し埋めた枕から高い声がもれたのが聞こえた。部屋の引き戸をノックする音が聞こえた。わたしは横を向いて寝ているフリをした。入ってきた伯母は、わたしに近づいて言った。
「六花ちゃん?起きてる?おばちゃんさ、洗濯しようかなって思うんだけど、洗濯機の使い方がわからないの。」
わたしは涙を拭いただけの真っ赤な目をむけて、
「わたし、します。下に行きますから。」
と返し、半身、起き上がった。
「いいわ、だいじょうぶ。おばちゃんがしておくから。」
「すいません。」
と言って、わたしは鼻をすすった。
戸が閉まって、わたしはまた寝ころんだ。
眉毛の下の裂目から、光を拾わないように、固く閉じた。
母の義姉で、埼玉に暮らしている伯母には、年に一度会えればいいくらいだったが、母が入院して以来、伯父に代わりよくお見舞いにも来てくれていた。実家が病院と同じ市内にあったこともあり、こちらへいるときは毎日来てくれたこともあった。
1回目の手術開始時間にまにあわないように、高校の生徒会室に居残って遅れていったときに、わたしをいちばん責めた目で見ていた人。わたしのひとつ上の娘に、プラチナのネックレスをあげたことを話していた人。
「六花ちゃんも、買ってもらうといいわ。19歳になにかプラチナのものを贈られると、幸せになるんだって。なにかの雑誌で読んだの。ほら、うちの子も今年そうじゃない。ただ雑誌で読んだんだけどね、まぁいいかなって思って。」
思い出して、わたしは不幸だなと思った。わたしにはもうひとり叔母がいたが、この家から婿に行った叔父さんの奥さんだから、わたしには血のつながったおばはいなかったのだ。そのことを、不幸だと思った。