思い出も夢の中
口のまわりを油まみれにして、泣いていた少し前のことを思い出していたら、涙があふれていた。でも、あの瞬間の涙はもう流せない。わたしは、かわいそうだと思って泣いている。自分がかわいそうでならない。不安だった。自分のルーツの途絶えたことに。
手足を縛られて、大きな渦へ、投げ込まれる。渦の中で、もがくのだ。知らないことを、なじられる。できないことを冷やかされる。わたしは、そんな気持ちだった。どうして死んだのだろう。わたしのライフイベントは、彼女のライフイベントなのに。成人式の振袖を選びに行くのだって、結婚式も、出産も、まだまだたくさんのライフイベントがこの先、彼女を、わたしを待っていたのに。なにか大事なことを訊き忘れた気がする。
(プリンの話)
プリンを食べると、いつも思い出す。
保育園に入った最初の一年間は、おじいちゃんが毎朝、送ってくれた。帰りはタクシーで町内の入口まで送ってくれる。今は中型のバスがあって、送り迎えをしている。
わたしは、おじいちゃんが運転するバイクのうしろが好きだった。腰にしがみついて、雨の日はスプラッシュマウンテン級におもしろかった。晴れの日は、流れる景色と、頬をなでる風がずれることなく感じられて、わたしは好きだった。
わたしは記憶になかったが、母はわたしにはなしをして、わたしの記憶をよびさました。
「さぶかったかぁ、ってきくと、くびがしゃっこいって言うもんだん、来年はこうちゃんが入るし、だっけぇ車買おうって言ったがぁ。言ったの、お母さんがぁよ。って言った次の日から、あんたは先生やら友達やらに、くるまがくる、くるまがくるって言ってさぁ。恥ずかしかったてぇ。そうそう、恥ずかしいと言えば、車買ってすぐくらいに、父母参観があって行ったがぁ。」
「あたし、なんかした?」
「あぁーぁーあ。おやつにプリンが出たがぁて。プリンをスプーンで食べてたが、そこまではいかったんだろもさぁ、それからんがぁいてぇ。テーブルの上に落ちたプリンを、こう···」
わたしはテーブルに口をつけてプリンをすすった(らしい)。
「しねぇばいいろもな、って思っていると、他のお母さんがいらんるってがぁ、嫌らいやぁ、ほんに」
その話は、高校に入ってから初めて聞いた。わたしの同級生の母親は、すべてわたしがすすったのを知っていたってこと?わたしの輝かしい小中時代は、一気に吹き飛んだ。
ごめんなさい。プリンを食べてごめんなさい。