引退した競走馬|心のぬくもり幻想舎
「この子は半年前まで競走馬として活躍していたんです」
広々とした丘の上には、新緑をついばむ一頭の馬と、そばで寄り添うように立つお姉さんがいた。
私はその馬を見つめながら、“競走馬”という聞き慣れない言葉に首をかしげる。
すると父が「たくさんの人のために走った馬のことだよ」と答えてくれた。
「もう走るの飽きちゃったの?」
友達のユウくんはかけっこが大好きだって言ってたわ、とまだ数少ない比較対象を持ち出して、馬の世話をしているお姉さんに問いかける。
「走ることは今でも大好きよ。でも、みんなのために走りすぎて疲れてしまったの」
「ふぅん」
「でもね、本当は人を乗せることは大好きな子なの。だから、たまには小さな子供を乗せる体験を行っているのよ」
優しいお姉さんの眼差しに答えるかのように、馬はゆっくりと首をもたげる。
「撫でてもいい?」
「ええ、もちろんよ」
ゆっくりと触ってあげてね、と私の手を取って馬の顔へと近付ける。
艶やかな毛並みが太陽の光で輝いていて、あたたかかった。
fin.
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ご覧いただきありがとうございました。
こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
前週分はInstagram(@ousaka_ojigisou)に先にアップしています。早く読みたい方は、あわせてチェックしてみてくださいませ。
大野