雨上がりの森で少年は眠る
地に潤いをもたらした雲が去り、青空が広がる。
とある森の中、女性は歩を進める。
茶色のストレートヘアにチューリップハット。線は細いが丸みの帯びた部位は出ている、何処か幻想的な装いの美女。
川のせせらぎと葉擦れを耳にしながら歩いていると木陰から小さな影が飛び出してきた。
リスだ。
女性はリスの姿を目にすると、優しく微笑み、そして何かを探すようにゆっくりと辺りを見回す。
「いた。」
巨木の下、金髪の少年が眠っていた。
女性は眠っている少年の前に立つと名前を呼んだ。
「ユウキ。」
少年は深い眠りについているのか、女性に名前を呼ばれても起きない。しかし女性は返事をしない事に苛立つ様子もなく、フフッと柔らかく微笑んでもう一度名を呼んだ。
「ユ・ウ・キ。」
トン、トン、トンと肩を指でつつかれ、ユウキと呼ばれた少年はようやく目を覚ました。
「あ…ミチル…。もう、行く?」
「ああ、そろそろ出発するよ。」
「ん…分かった。」
眠たそうに目を擦りながら、少年はゆっくりと立ち上がる。
「支度は済んでいるかい?リリーが早く行くよと口五月蝿くてね。」
「大丈夫、もう、終わっている。」
少年は乾いた石の上に置いていたリュックを拾い上げて背負い、女性と共に歩き出す。
「次、旅、ゆっくりしたい。」
「要請が無ければ出来るかもしれないね。でも、自然は私達の都合になんて合わせてくれない。せめてもの、怪奇獣が出没しないことを祈るしかないのさ。」
静かな森の中、サクッ、サクッと地面を踏みしめる音が聞こえる。
昨日は大雨だった。事前にスマホに警報が届いていたため雨宿りは出来たが、気温が高かったから少年は一日中嫌な気分になっていた。けど、晴れ上がった後の木暮で眠るのは涼しくて気持ちが良かった。露が葉っぱからポタリと落ちる。その音がまた安らぎを与えてくれる。
雨によって泥の窪みに出来た大きな水たまりが、山道を歩む二人の姿を映し出していた。
少年と人ならざる獣の如き異形の姿を。