赤髪少年はひとっ走りしている
「こんにちはー!」
ランニング中の少年が近所のおばさんに挨拶をする。互いに見知った顔であるからおばさんも笑顔で挨拶を返してくれた。
ポニーテールにした赤く長い髪を揺らして、少年は住宅街の歩道を走る。
ランニングルートはいつも漠然と。今日は街外れの田んぼ道を適当に走ろうかと考えていた。
まだ6月なのにジリジリと暑い。気温の高い向かい風が肌を撫でる。
「あっつーー…」
ハッ、ハッ、と息を吐きながらポツリと漏らす。
シャツが汗で湿っているのが分かる。
「梓兄ちゃんだ!!」
前方から男の子の声。右側の公園の入口から小学生の男の子が三人、こちらを見ていた。
「お兄ちゃん、こんにちはーー!」
「おーーう!!こんにちは!!」
少年は少しだけスピードを抑えて、声を掛けてきた男の子に挨拶を返す。
もう二人の男の子は初めて見た顔。駄菓子屋にもまだ来た事ない子達かな?
その子達はこくり、と頭を下げるだけだった。
「え、今の人、男の人なの…?」
「お姉さんだと思ってた…。」
男の子達の前を通り過ぎた後にそんな会話が聞こえた。
人見知りなんじゃなくて、女性だと思ってた人が実は男性だったと分かって呆気に取られてたらしい。
細い顔の線、背中まで届く長髪、切れ長の目。
女性的な記号が多いために初対面の人物からは大体性別を間違えられてしまう。
しかし、当の少年は大して気にもしていなかった。
ここ数週間は出動要請もない。
実家の駄菓子屋の手伝いやバイト先での仕事もあって大変ではあるが、なんだかんだで趣味の時間は確保出来ている。
こんな時間が続くといいなぁ。
そう考えながら、少年は公民館の前を通り過ぎる。
「おっ。」
ふと、公民館の敷地内に植えられている巨樹に目が行く。
小さい施設の庭に電柱のように立派に佇んでいる一本の樹木。
少年は足を止め、公民館の門より外からその樹木を眺め始めていた。
「おっきぃなぁ。これ何の木?」
巨樹の足元に種類を記載している小さな立て札があるが、距離がありすぎて読み取れない。
無理と分かりながら少年は目を凝らすが、すぐに止めてしまった。
「ま、いいか!」
少年は巨樹に生い茂る緑を見上げる。風に煽られてザワザワと葉音を立てる。
ふと、巨樹の後ろに広がる山々を見る。視界いっぱいに広がり、陽を受けて輝く緑の大地。その上を流れる白い雲。
広く風景を見渡した少年の口元に笑みが浮かんだ。
「…また、道具持ってきてこの辺を絵にしてみようかな。」
少年はまた走り出した。