銀髪青年は仕事を始める
「あー…ねみねみ。」
朝6時 駄菓子屋 芹沢屋。
気怠そうにあくびをしながら、埃を吸い込まないようマスクを着けて棚から物品を退け、埃はたきと雑巾で棚を掃除する男がいた。
「あー…だりだり。」
掃除を終えて手を洗った男は、今度は段ボールの箱を開封する。
中身は菓子。男の嗜好品ではなく、駄菓子屋に陳列するための商品だ。
段ボールの中に詰められた小箱の一つを取り上げて、丁寧に開けていく。一口サイズのカルパスの箱だ。
男はカルパスの一つを摘みあげ、天色をした三百眼の前まで持ち上げる。
「こいつが意外にも売れてくれたんだよなぁ。ツマミにもなるからか?」
そう言ってそっと箱の中に戻す。銀色のミディアムヘアーに、筋肉質な体格のヤンキーのような粗暴な風貌の男だが、そんな見た目に反して商品の扱いは慎重かつ丁寧だった。
「また今日も売れてくれよなぁ。」
両耳にワイヤレスイヤホンを着けてスマホでラジオを聴きながら菓子類を次々と棚に陳列していく。この男の毎日の習慣だ。
「明日は木曜か。今日頑張りゃ休みだな。」
毎週木曜の定休日。男は休日の過ごし方について考えだした。
晴れてたらツーリングに行くか、それとも以前から一度行ってみたいと思っていた食事処に行ってみるか…。
頼むから、こういう時に出動要請が来ないで欲しいものだと男は願った。
「零人くん。」
後ろから掛けられた声に振り向く。黒髪をオールバックにした男性が立っていた。
「風巻さん、おはようございます。」
「おはようございます。朝早くで申し訳ないのですが、頼み事をしてもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
そう返すと、男性は駄菓子屋の入口に向けて指を差す。
「入口の扉付近に結構雑草が生えてまして。時間があったら取って頂いてもいいですか?」
「あぁ…ここのとこ、暖かいからよく生えるんですよね。」
「私も驚きました。少し前に毟っておいたのですが、どうやら全てではなかったみたいで…。私はこれから行かなくてはいけないところがありますので、零人くんにお願いしたいのですが…。」
男は「いいですよ。」と立ち上がる。
「朝ごはんはいいんすか?」
「ええ、何処かで食べてきます。」
男が「うす。」と返事をすると、相手は去っていった。
商品の陳列を終え、男はレジ裏の扉を開けて清掃道具を入れている戸棚からビニール手袋を取り出し、両手に着ける。
「…んじゃ、暑くならねぇうちに終わらせちまうか。」
20Lのビニール袋を一枚引っ張り出すと、男は駄菓子屋の入口から外へと出た。