自身の核心
…はい。すっごい間が空きました。
すいません。
前回死んでしまった主人公。
今回どうなってしまうのか。
それではどうぞ
「ここは…どこなの?」
弱々しい声でそう呟く。
こんな怯えたような声になってしまった理由は分かっている。
オーマ…『魔王』に、一瞬にして殺されてしまったからだ。
――ここは、どこなのだろう。
周りを見渡すと、暗い、閉鎖空間であることがわかった。
服もいつの間にやら変化している。
銅は、白っぽいシャツに。
脚は黒っぽいスカート。
靴は、紺色のサンダルになっている。
だからといって、脱出できるとは限らないが。
今でも魔王に言われたことが頭の中で木霊する。
『魔王の生贄にするために家を出された。』
頭の片隅では、そんなことはないと訴えかける意識がある。
しかし、頭の大部分は霞がかかったように動かない。
ただ、魔王の言葉に対して、そうだったのか、とショックを受けている。
「魔王の…生贄?私は…いないほうが良かったの?」
考えるほどに思考は薄れていく。
しかし、だからといって考えることはやめることが出来ない。
「私より、お兄様のほうが役に立った?お母様とお父様は、最初から、私を要らない子と認識していたの?なら…私は―――私は、約立たず?だから私は生贄に…追い出されたの?」
駄目だ、思考を止めるんだ。そんなことは決してない。
と、頭の何処かが懸命に叫んでいる。
しかし、私の思考は、もう戻らなかった。
「…私のことを、お母様とお父様は、『要らない』って思ったから捨てたんだわ。冒険に出て行かせるって装って…私のことを魔王の生贄にして【捨てた】。私なんて最初から要らなかったんだわ。私なんて…お兄様みたいに、お母様やお父様の、『必要』になんてなれない…だから、私は、最初から生まれてこないほうが良かったんだわ…」
――その時、自分の腰に剣が差さっていることに気づいた。
「…こんなところに、いいものがあるわ。これを使って、すべてを…終わらせましょう。」
私は腰の剣をゆっくりと抜くと、首の近くにあてがった。
「…うふふ…さようなら、世界。」
頬から一滴の涙が零れ落ちた。
首の近くにあてがった剣を、一気に首まで引こうと数セントこちら側に引いたところで、
『ガァン』
と、障壁に阻まれた。
驚いて背後を振り向くと、青髪長髪の、紫色の瞳をした一人の少女が立っていた。
蒼のワンピースを着て、裸足でいる。
「あなたは――誰なの?」
暗闇の中にいる少女は笑みを浮かべながら言った。
「私は、貴女の中で生まれた、善意の心。名前は…無い…なぁ。種族は、そうね、『魔法使い』とでも言っておきましょうか。」
少女は今、『魔法使い』と言った。しかし、腰に差さっているものは、杖ではなく、剣だった。
「…貴女、魔法使いなの?腰に差さっているの、剣だけど…?」
「そうね。【種族】が魔法使いってだけね。【職業】は、『魔法剣士』って言ったところよ。」
少女が出した新たな情報に舌を巻きながら、私は遅まきながら聞いた。
「なんで…私が死のうとしたところを止めたの?私は、捨てられたのよ?」
私が自殺しようとして数セント引いた剣を拒んだあの障壁。あれはよく見ると魔法陣だった。そして、その魔法陣を誰が出したかなんて、単純明快だった。
「それは…貴女の考えが、間違っていると思ったからね。」
その言葉を聞き、私は、更に疑いの心が出た。
「なんで?魔王は、『生贄にするために出した』って言ったじゃない。だから、私は【要らない】ってことなんでしょう?」
私がそう聞くと、少女は穏やかな声で、
「まず、その魔王の奴から間違ってるわよ。いらないんだったら、自分で殺したほうが早いわよ。万が一、自分より強くなって戻ってきたらどうなるか…」
少女は、まるで実体験のように話すと、軽く身震いをした。
「…そうなの?なら私は、いらないわけじゃ無い?」
「ええ。そうね。」
「そう…」
正直、その言葉を聞いただけですごく安心した。
そして、目が潤んだ。
少女は、何でもお見通しと言わんばかりの顔で両手を広げ、「こっちにおいで。」と優しい声で言った。
私にはそれで――それだけで十分だった。
私の涙腺は崩壊し、子供のように号泣しながら、少女の胸に飛び込んだのだった。
しばらくして、落ち着きを取り戻してきた頃、私は言った。
「貴女…名前が無いんだったわね。その…おかしいかもしれないけど、私が、名前…つけてあげようか?」
それを聞いた少女は、大輪の花のような笑顔を見せて言った。
「いいの?ありがとう。」
そして私は考えた。この少女に似合う名前を。
先程の、大輪の花のような笑顔から、どこかの花の名前をつけようと思っている。
あとは、少女の髪と同じ青い花は…
と、思考を巡らせていくと、ある1つの花の名前が浮かび上がった。
「貴女の名前…【アネモネ】って名前は、どうかしら。名字は…どうする?」
「いいの?そんな名前貰っちゃって。」
少女は、宣告と同じような笑顔を見せ、言った。
「ええ。いいわよ。」
「ありがとう!名字は…まぁ、必要になったら、君のを借りようかな。」
名字が無い状態では、それが1番の最善策であろう。
「ええ。そうね。それがいいと思うわ。あと、私の名前はアリシア。『アリシア・ローレット』よ。」
「アリシア…うん!いい名前だね。ってことは、私は、『アネモネ・ローレット』ってことになるのかしら。」
「そうね。」
「やっぱり、いい名前だよ。アリシア。」
その少女の満面の笑みを見た瞬間、私は、この名前にしてよかった、と思うのだった。
そして少女は、手を出した。
私は、少女改めアネモネと、握手を交わした。
「ねぇ、アネモネって、剣使える?」
私は、アネモネにそう訪ねた。
「うん。使えるけど…それがどうしたの?」
「えっとね…魔王が言ったことが嘘か本当かは分からないけど、私は、あいつを倒したいの。」
魔王への復讐…と言うまではいかないが。
「ふぅん…だから、【職業】が『魔法剣士』である私に聞いたんだ。」
「そうね。」
剣を教わるなら、剣士でもあるアネモネに聞いたほうが早いと思ったのだ。
「なら、アリシアは今から、私の弟子って言うことでいいのよね?」
「ええ。」
弟子、という響きはこそばゆかったが、悪くはない、とも思えた。
「修行の道は厳しいわよ?」
アネモネは大袈裟にそう言ったが、もうとっくに覚悟というものは出来ていた。
「望むところよ。」
「…って言っても、まずはアリシアのステータスを見ないと、どこを育てればいいかわかんないよ。」
「あ、そうか。『ステータス・オープン』」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名 【アリシア・ローレット】
性 女
歳 15歳
lv.2
攻 140
守 133
速 121
魔 0
スキル 【】
魔法 【】
装備
頭
銅 精神の装い(上)
脚 精神の装い(下)
足 精神の靴
手(右)石製の剣
手(左)無し
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
先程魔王に襲われてから何も変わっていない。
「こういう感じ…ね。アネモネは?」
アネモネはどうなっているのかと気になったので、何気なく聞いてみる。
「私?私は…『ステータス・オープン』。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
名 【アネモネ・ローレット】(新)
性 女
歳 16歳
種族 『魔法使い』
職業 『魔法剣士』
lv.5
攻 296
守 257
速 283
魔 315
スキル【魔法百科】
・魔法を覚えるのが素早くなる
魔法【炎系魔法】【水系魔法】【光系魔法】
中級 上級 master!
装備
頭
銅 スペルド・ワンピース
脚 (銅脚一括)
足
手(右)マインドネトラヴ
手(左)無し
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じ…かな。」
アネモネははにかみながらそう言った。
「ねぇ、なんで、名前のところに、(新)って付いてるの?」
明らかに私のところにはついていなかった。
「それは…多分さっき、アリシアが私に名前をつけてくれたからじゃないかしら。名前をつけて貰う前までは、【善意の心】って書いてあったもの。」
善意の心…
「そういえば、ここはどこなの?」
「うーん…多分、ここはアリシアの魂の中だと思うよ。そして私は、魂の住人ってことになるのね。」
魂の…中。
「せっかくだし、名前、つけようか。」
「そうね。」
いつまでも魂の中だと…なんか嫌だ。
暗闇に包まれた空間…でもそれは、私の魂。
「名前…になってるかどうかわからないんだけど…『魂部屋』みたいな?」
我ながら安直すぎる。
「…結構ストレートだね…」
と、アネモネがそんなことを言うので、私はたまらず、
「うぅ…そんなことは1番私が分かってるわよ…」
と呟いた。
そんな私にアネモネは
「まぁ、いいんじゃない?今からここは『魂部屋』だね。」
と言った。
「えぇ…そうね。」
「それはそうと…剣の特訓をする前にアリシアは魔法を覚えたほうが良さそうだね。」
そんなことをアネモネが言うので、私は、
「え?魔法って、使える人だけの専売特許じゃないの?」
と聞いた。
今まで、魔法は覚えられないものだと認識していた私にとって、覚えられると聞いたときの感情の高ぶりようは凄かった。
「まぁ、アリシアはまだ、炎系魔法ぐらいしか覚えられないだろうけど…そのうち覚えられるようになるよ。」
「そうなの?なら…お願いします!師匠!」
と、私が大袈裟に言うと、アネモネは
「うむ。良かろう。」
というので、二人して吹き出してしまった。
〜数時間後〜
「ぜぇ…ぜぇ…魔法って、意外と神経消耗するね…」
ものすんごく疲れる…一つの魔法を習得するだけで、こんなにも体力と精神を消耗するものなのだと、私は今回、身をもって知った。
「あはは、それはまだまだ魔力が足りない証拠だよ。まぁ、多分さっきので100ぐらいはいったんじゃない?」
と、真剣な表情でアネモネが言うので、
「…アネモネは、魔力が315もあるからね…」
と返す。
先程の特訓で、炎系下級魔法の、『火炎』は覚えられた。
多くの魔法は、下級、中級、上級に分けられるという。稀に上級の更に上が発言されることもあるのだとか。どっちにしろ、私には程遠いが。
「よし。あとは、剣の使い方だね。」
…そうだった。まだ剣もあるんだ…
〜数時間後〜
アネモネから剣の基本的な使い方、振り方、体捌きを教わったところで、今度は1対1の立ち合い。
結果は、0勝全敗だった。
「うん。始めたての頃よりかは良くなったよ。あとは細部をちょこっと調整するだけだね。」
…これでもまだ完璧では無いという…
「でも、多分もうちょっとレベルを上げないと、この先はきついと思うよ。だから、一回家に戻ったらどう?ゆっくり休んだほうがいいよ。」
と、アネモネはいう。
「そう?――なら、なら、そうさせてもらうわ。」
「うん。私とは、いつでも『思念伝達』で話せるからね。ここは退屈なんだ。」
またもや新たな言葉が出てきたが、それはおいておく。
「えぇ。また話せるときは話しましょう。じゃあ、またね。」
と、私はアネモネに別れの言葉を告げる。
「うん。また。」
その途端、私を青白い光が包んだ。
目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。
場所は、魔王と会ったときと同じ。
近くに魔王はいない。
その時、頭の中にアネモネの声が響いた。
《やあ。さっきぶり。突然なんだけど…左に見える光の方向って…》
と言われ、私は左…生まれ故郷のカムダラ王国の方を向いた。
オレンジの光が遠くに見え、空には黒煙が昇っているのが見える。
「…あれは…火?…っぽいよね?アネモネ?」
《うん。そうだね。そして、あっちの方向は…》
「私の家がある方向。急がなきゃ!」
私は、火が見える方向…そして、自分の家がある方向へ一目散に駆けていった。
…アリシアさんの家が一大事です。
次回、どうなってしまうのか
それではばいなら!