表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/45

5.奪う者たちへ

「セイレスト王国に奪われた資源も、人も、これから取り戻して見せるわ」

「ああ、そのために俺も準備を進めてきた。必ず取り戻してみせる。君にもまだまだ手伝ってもらわないといけないが……」

「もちろん協力するわ。そのために戻って来たんだから」

「ありがとう。アリス……」


 感謝の言葉を口にしたレオル君は、いつになく優しい表情を見せる。

 じっと私の瞳を見つめ、柔らかく溶けそうな声で言う。


「今日まで本当に、よく頑張ってくれたね。君がいてくれてよかったよ」

「――!」


 ずるい、と思った。

 労いの言葉をかけてくれる人は、あの国には一人もいなかった。

 私がどれだけ頑張っても、褒めてもらえない、認めてもらえない。

 認めてほしかった人には、見向きもされていなかった。

 そんな私に、心からの感謝をくれる。

 私がいてくれてよかったと、まっすぐに目を見つめながら言ってくれる。


「ここはもう俺の国だ。この部屋にも俺たちしかいない。だからもう、その涙を我慢しなくていいんだぞ?」

「……」

「腹が立ったら怒ればいいし、悲しい時は泣けばいいんだ。俺は情けないなんて思わない。俺の前でくらい弱さを見せてくれ」

「……っ、うぅ……」


 ここまで言われて、涙を堪えるなんて無理だ。

 私の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


「私……頑張ったのに……」

「ああ、よく知ってる」


 子供みたいに涙を流す私を、レオル君がそっと抱き寄せてくれた。

 彼の胸の中は温かく、落ち着く。


 ずっと我慢してきた。

 スパイになると決めた日、それよりずっと前からだ。

 辛くても、苦しくても、涙は出さない。

 もっと努力すれば認めてくれる。

 甘い考えだとわかってからも、私は耐え続けていた。

 意味のない努力にも、心無い言葉にも。


 ようやく解放された。

 そして、私はいろんなものを失った。

 だからこそ、この手に残ったものを失わないために……。


「私……もっと頑張るから」

「俺も一緒に戦う。見せてやろう、あいつらに。君を切り捨てたことが間違いだったと教えてやるんだ」

「――ええ、必ず」


 ここから始まる。

 私の、私たちの物語は。

 裏切られっぱなしの人生に、大きな裏切りの花火を咲かせてみせましょう。


  ◇◇◇


 アリスティアを追放したことにより、後任として妹であるシスティーナ・ミレーヌが着任した。

 彼女は姉が宮廷入りを果たした直後から、当主の命令で魔法の修練を積んでいる。

 そしてたった二年足らずで基礎的な技術を身に着け、魔法使いとして平均的な実力を手に入れた。

 彼女には魔法使いとしての才能があった。

 それ故に、当主である父はアリスティアを追い出す計画を進めたのだ。


 彼女に働かせ、様々な功績を生み出し、その全てをシスティーナに引き継がせる。

 そうすれば功績だけが残り、不要な汚点は排除できる。

 ミレーヌ家にとって、父親にとって、スパイとの間に生まれた子供など汚点以外の何者でもなかった。

 いくらアリスティアが努力しようと、すでに父親の心に愛はない。

 利用価値があったから、これまで追い出さずにいただけのことだった。


 システィーナ自身も、姉のことを見下していた。

 自分より劣っている存在が、姉としていることを快く思っていなかった。

 宮廷入りしたことへの対抗意識もあっただろう。

 無能な姉を利用し、追い出すことに何の躊躇もなかった。


 婚約者であるルガルドも、ミレーヌ家の事情は知っている。

 平民との子供と婚約するなど、彼にとってもメリットは少なかった。

 が、ここでミレーヌ家当主の話を聞く。

 いずれアリスティアは消え、システィーナが全てを手に入れる計画を。

 だから彼も計画に賛同した。

 平民の子供とは言え、アリスティアが王国にもたらした影響はそれなりに大きい。

 ただ失うだけではもったいない。

 ならば働かせるだけ働かせて、成果は最後に奪ってしまおう、と。


 そして三年後の現在、ついに計画は実行された。

 念願は叶い、システィーナは全てを手に入れ、そのシスティーナとルガルドは甘い時間を過ごす。


 ――はずだった。


「こ、こんな量を一人で……間違っていませんか?」

「いえ、これで全てです。前任者が担当していた業務がこちらになります」


 さっそく問題が発生する。

 姉に代わって請け負う仕事量が、システィーナの想像を超えていた。


「い、いきなりこの量は……」

「それは困ります。前任者の業務を完全に引き継ぐ。そういう契約で、特別に宮廷入りを許されたはずです。殿下もそのおつもりで、あなたを任命したと思いますが?」

「……」


 宮廷魔法使いの室長の言葉に、彼女は言い返せない。

 本来は既定の試験を受けることでのみ得られる宮廷付きの称号。

 今回は特例により、前任者の不在を埋める形でシスティーナは着任した。

 これを国王陛下、ルガルドも同意している。

 つまり、彼女には与えられた仕事をこなす責任がある。


 この……通常の五倍はある仕事量を。


「そんな……」


 これもアリスティアの計画のうちだった。

 システィーナの自由を奪うほどの仕事を残して去ることも。

 全ては計画され、計算されていた。


 だが、まだ序の口。

 本番はここから。


 彼女たちは知らない。

 本当に裏切られていたのはどちらなのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『«引きこもり錬金術師は放っておいてほしい» 妹に婚約者を奪われ研究に専念できると思ったのに、今度はイケメン王子様に見つかって逃げ出せません……』

https://ncode.syosetu.com/n8441io/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[良い点] 無自覚ざまぁじゃなくて計画的なざまぁ系って珍しいけど無駄に500話とかそのレベルで長く続けてぐだぐだになる場合を除いたらこの作品が駄作になることはなさそうで安心して読める こういう駄作にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ