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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
エピローグ

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 この瞬間をずっと待っていた。

 怯える彼に歩み寄る。

 彼は下がろうとするけど、後ろはもう壁だ。


「な、何をする気だ……」

「あなたは私に危害を加えようとしました。だからお仕置きします」

「ふざけるな! こんなことをしてただで済むと思っているのか! 僕は王子だぞ!」

「だから?」


 激昂する彼に、私は静かに首を傾げる。

 王子だから何?

 ただじゃ済まないのは自分のほうだと、まだ理解できていない。

 人間は追い込まれるほどその人の素が出るものだ。

 つまり、この愚かさこそがルガルド殿下の本質だったということか。


「そんなあなたにピッタリなお仕置きを用意いしてあげる」

「ぼ、僕を殺す気か」

「私はしないわ。ただ、周りがどうするか決めるでしょうね」

「ま、周りだと?」


 私は笑みを浮かべる。

 一つだけ、呪いに関して嘘をついた。

 発動すれば死ぬ呪いだと。

 そうじゃない。

 私が仕掛けた呪いは、愚かな彼に最大の罰を与えるものだ。

 今ここで、その効果を発揮する。


「ぐ……こ、れは……」

「呪いを発動させました」


 彼は苦しみだす。

 胸を押さえて痛そうだ。

 けれど死んだりはしない。

 胸の痛みも苦しみも、すぐに治まる。


「な、なんともない? ふはははっ! 不発だったみたいだな!」

「――いいえ、ちゃんと発動しましたよ?」

「どこがだ? 僕はこうして生きて」

「私が殺したのはあなたじゃなくて、あなたの未来ですから」


 私はニコリと微笑む。

 そろそろやってくる。

 ドタバタと、荒々しい足音が近づき、豪快に部屋の扉を開けた。


「ルガルドはいるか!」

「父上!」


 現れたのは国王陛下と数名の騎士たちだった。

 酷く怒っている。

 息子が危険にさらされているからか?

 ルガルド殿下はそう思い、勝ち誇ったような表情で私を見る。


「これで君は世界の敵だ」

「――ふふっ、それはあなたですよ」

「なにを――」

「ルガルドを拘束しろ!」

「なっ、父上!?」


 騎士たちがルガルド殿下を組み伏せ拘束する。

 咄嗟のことで殿下も困惑する。

 何が起こっているのかわからない。

 組み伏せられた殿下を見下ろしながら、国王陛下は怒りを露にする。

 

「失望したぞルガルド……まさかお前が、この国を乗っ取ろうとしていたとはな!」

「なっ、何を言っているのですか!」

「惚けるな! お前の甘言で八か国をたぶらかしたのだろう? 全てわかっているのだ!」

「――ふふっ」


 私が仕掛けた呪いは、彼に対して発動したわけじゃない。

 この結界にいる人々に効果は発揮される。

 発動したのは、特大の幻術。

 偽りの記憶を植え付ける。

 全てを企み実行したのは、ルガルド殿下であると。

 

「違います父上! 僕ははめられたんです! そこの魔女に!」

「何を言っている? 誰もいない場所を指さして!」

「――!」


 そう、見えているのは殿下だけだ。

 私の笑みも、企みも、声も届いてはいない。

 傀儡は、殿下だけじゃなかった。

 この国全てが、私の操り人形となる。


「さようなら、殿下。いいえ……可哀想な罪人さん」

「くそがああああああああああああああああああああああ」


 三年以上かけた復讐劇。

 私と、レオル君と、レイニグラン王国の皆が望んだ光景。

 下品で哀れな叫び声を聞きながら。


 これにて閉幕。


 そして――


  ◇◇◇


 全てが終わった。

 何もかもを取り戻し、世界は安定する。

 私は一人、王城のベランダから外を見ていた。

 そこへ彼がやってくる。


「何を見ているんだ?」

「空と街……かしら」

「何を思っていたんだ?」

「平和になったわね。それだけよ」

「そうか」


 彼は笑う。

 風が吹き、互いの髪がなびく。


「順調かしら?」

「おかげさまで。そっちも忙しいだろ?」

「そうね。たくさん戻ってきちゃったみたいだし、宮廷魔法使いとしてやることが山積みよ」


 三か月が経過していた。

 八か国から資源採掘場は返還され、各国の首脳と会談した結果、共同で使っていくことで決まった。

 どこかの国と違って、私たちは他国とも友好な関係を築きたい。

 それはレオル君と、国王陛下の願いだ。


「この調子なら、父上にもいい景色が見せられそうだな」

「もう十分いい景色だと思うわよ?」

「まだまだ。やっとスタートラインに立ったばかりだよ」

「頑張るわね。レオル君……ううん、もう国王陛下と呼んだ方がいいかしら?」

「やめてくれ、むず痒い。今まで通りで構わないよ」


 ちょうど二か月前だ。

 彼は正式にレイニグランの国王に就任している。

 病弱な自分では国をまとめられないと、前国王自らがレオル君に託した。

 今はレオル殿下ではなく、国王陛下という立場となったわけど……。


「そういえばさっき、シクロ殿下が来ていたな」

「ええ、また求婚されたわ」

「やっぱりか」

「困ったものね」


 あの一件から落ち着いて、シクロ殿下が私を婚約者に指名するという大きな出来事があった。

 いつの間にか彼に気に入られてしまったらしい。

 今のところ私は断っているのだけど……。


「諦めてくれないわね」

「相当惚れこんでいるみたいだったからな、君に」

「どこがいいのかしら」

「自覚なしか。君らしい」


 彼は隣で呆れたように笑う。

 そのまま呼吸を整えて、私のほうに身体を向ける。


「俺も困らせていいか?」

「え?」


 いつになく真剣に私を見つめる。

 自然と私も、彼のほうへと身体を向ける。


「俺も、君を婚約者にしたいと考えている」

「――レオル君、も?」

「ああ」


 頷く彼に、私は尋ねる。


「どうして?」

「あのなぁ……」


 大きくため息をついた彼は、呆れた笑顔で私に言う。


「これだけ長く一緒にいて、いろいろ乗り越えてきたんだ。好きにならない理由がどこにある?」

「――!」


 この時初めて、彼からの好意を知った。

 心からマヌケだと思う。

 他人を疑ってばかりの私には、こんなに近くにいたのに、彼の好意に気づけなかった。

 そして、自分の心にも。 


「私みたいなスパイを近くに置いたら、心がすり減るわよ?」

「今さらだ。君が俺を裏切らないことくらい、ずっと前から知っているよ」

「……そうね」


 私は誰も信じていない。

 心から気を許せる相手なんていなかった。

 ただ一人、彼を除いて。

 そう決めた時点で、私の心は決まっていたのだろう。

 きっと初めて出会った時からずっと……。


 私の心に、彼は潜り込んでいたみたいだ。


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