Ⅳ
驚愕する彼の前に、私は不敵な笑みを浮かべて現れる。
驚いたことでしょう。
完璧なタイミングだと思ったから、私は転移の魔法で駆け付けた。
今しかないと思えるほどに、彼は笑みをこぼしていた。
その笑みが驚きと焦りに一瞬で変わる。
「滑稽ですね」
「くっ……なぜここに? 見ての通り何もしていないよ。軍が動いているようだけど、あれを指示したのは父上だ。君のことも当然話していない」
「レイニグラン王国を標的にしているようですね」
「普通に考えれば誰でもわかる! こんな状況、裏でどこかが手を引いていることはね? 父上は聡明なお方だ。自力で気づいても不思議じゃない。まさか止めなかったからダメなんて言わないでくれよ? 指示通り何もしなかったんだから」
彼は焦りながら必死に言い訳を口にする。
早口で唾をまき散らし、何度も視線を逸らしながら熱弁する。
これで誤魔化せると思っていることが浅はかだ。
私は呆れてため息をこぼす。
「こ、こんなところにいていいのかな? あの軍は君の国を襲うために出発するんだぞ?」
(くそっ……いや好都合か。今のうちにカリブが国王たちを暗殺すれば……)
「陛下の呪いなら解呪されましたよ」
「――は?」
ルガルド殿下はキョトンとマヌケな顔をする。
哀れな王子は気づいていなかった。
さっきまで話していたカリブ医師は、私が声を合わせただけの偽者だということに。
何もかも筒抜けだったことに。
「な、何を……」
「あなたの大切なご友人なら先に旅立たれました。悲しい思いをしてほしくなかったので彼のフリをして話しましたが……無用な心配だったようですね」
「く、また僕を騙して……」
「あなたの考えは浅すぎる。計画というものは、もっと入念に、誰にも気づかれず行うものですよ? たとえばこんな風に」
私はぱちんと指を慣らす。
じりじりと電流の音がして、ルガルド殿下も違和感を覚える。
「な、何をした?」
「外をご覧ください」
私は窓の外を指さす。
慌てて殿下は窓へと駆け寄り、外を確認した。
「こ、これは……結界?」
「はい、結界です。もちろん王都を守るためのものではありません」
大結界が王都を包み込んでいる。
内外の出入りを完全に封じ、発動者である私以外には解除できない。
これが第一段階。
「時に殿下、この国で使われている魔導具の基盤を作ったのは誰でしょう?」
「それは……」
視線が私に向けられる。
「そう、私です。魔導具に使われている魔法式も、軍用の魔法も、何もかも私が作ったもので一新されています」
つまりこの国は、私の魔法で繁栄してきた。
だからその繁栄を、私自身の手で終わらせる。
これこそ私が仕掛けた大きな花火。
「――リジェクト」
王都を覆う結界に魔法陣が浮かび上がる。
直後、王都のあらゆる場所で異変が起こる。
明かりが消え、水が止まり、空調も停止した。
当然、王城でも同様の異変が起こる。
「なんだ?」
「今、この瞬間を以て私が作った魔法の全てを阻害しました」
「な、何を言っている?」
「魔導具に刻まれていた式を破壊したんです。これでもう、今ある魔導具は何の効果も発揮しないガラクタになりました」
ルガルド殿下は驚き過ぎて口を開けっぱなしにする。
間抜けな表情を見せる彼に、わかりやすく教えてあげる。
「この国で私が広めた魔法には全て、私だけが制御できる式を組み込んでいたんですよ。たとえば今みたいに、魔法式を破壊したり、一時的に使用できなくするように」
「ば、馬鹿な! そんな君に都合のいいことができるものか!」
「できるから私はここにいるんです」
「くっ……」
悔しそうに唇を噛み締めるルガルド殿下は、壁にかけられた飾りの剣に視線を向ける。
ニヤリと彼の口元が笑う。
「君が作った魔法を封じるなら、今の君自身も無力だろう!」
瞬時に駆け出し、殿下は飾りの剣を取る。
飾りでも刃はついている。
斬られれば致命傷となるだろう。
狂気に満ちた表情で剣を構え、彼は私に向かって振り下ろす。
「消えろおおおおおおおおおおおお!」
が、彼の刃は届かず防がれる。
透明な魔法の結界に。
「なっ、なぜ魔法が……」
「本当に愚かですね」
私は風圧で彼を吹き飛ばす。
ここで作った魔法は使えなくなるだけで、それ以外は関係ない。
何より、自分で自分の策にハマるなんて愚かなことを、私がするわけがないのに。
「ぐっ、あ……」
壁にぶつかり剣を手放し、床にしゃがみ込む殿下に、私はゆっくり歩み寄る。
彼は涙目で上を見上げ、私と目を合わせた。
「お仕置きの時間ですね」
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!






