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40.スパイの矜持

 事の顛末は、私からレオル君に直接伝えられた。

 同じく宮廷魔法使いの二名、彼の幼馴染であるアレクとエイミーにも。

 彼らを含め、カリブ医師のことは信用していたらしい。

 それ故にひどく驚いていた。


「マジかよ……あのおっさんスパイだったのか」

「まったく気づきませんでした。呪いのことも、宮廷魔法使い失格ですね」

「二人の責任じゃない。最も近くにいた俺が気づけなかったんだ。アリスが気づいてくれてよかった」


 カリブの処遇は暫定的に、今のところは牢獄への幽閉となっている。

 魔法は使えないように拘束し、常に騎士が監視する。

 彼が持つ情報の全てを引き出すまでは、生かすほうが得策だと私も思う。

 その後にどうするかは、レオル君次第だ。


「ありがとう、アリス。呪いも君が解呪してくれたんだろう?」

「ええ、でも……」

「ああ、わかっている。説明は聞いていたからね」


 私はすでに、陛下の身体について彼に伝えてある。

 かけられた呪いは解呪した。

 陛下の身体を蝕む呪いは完全に消滅している。

 だけど……。


「呪いによって失われた命は回帰しない。どんな魔法を使っても、命だけは戻せないわ」

「君が不可能というなら、他の誰にもできないんだろうね」

「レオル君……」

「すまない。嫌な言い方だった。ただ……これで諦めがつく」


 悔しい気持ちは私にもある。

 もっと早く気づいていれば、陛下の命をほんの少しでも長く持たせることができた。

 最初から感覚に従えばよかったんだ。

 私は自分を信じられなかった。

 その結果がこれだ。


「ごめんなさい」

「謝らないでくれ! 君のおかげで、父上は苦しむことがなくなったんだ。それだけでも――」

「ぅ……」

「父上!」


 会話が聞こえたのだろうか。

 眠っていた陛下がゆっくりと目を覚ました。

 虚ろな瞳でレオル君を見る。


「レオル……それに皆も……」

「目が覚めましたか? 父上」

「ああ」


 ゆっくりだが、陛下はベッドから上体を起こした。

 いつも寝たきりで動けなかった身体を、数年ぶりに自らの意志で動かしたのだ。

 彼は自身のやせ細った手を見ながら、握ったり開いたりして感覚を確かめる。


「身体が軽い。痛みも……病は治ったのか?」

「それは……」

「私から説明します、陛下」


 私は名乗りを挙げる。

 呪いを解いたのも、諸悪の根源と対峙したのも私だ。

 ここは私の口から説明したほうがいい。

 レオル君も同意して頷く。

 それから私は、何が起こったのかを伝えた。


「カリブが? そうだったのか……私は……まったく気づかなかった。信頼していたのだがな……」

「そうなるように近づいたのでしょう。私が彼でもそうします」

「……そうか。助けてくれたこと、感謝する」

「いえ、私はただ呪いを解いただけです」


 陛下にも、ご自身の寿命が残りは僅かだと伝えた後だった。

 私の魔法には、肉体の情報を読み取るものがある。

 正確には判断できないけど、彼の身体は急激に老いていた。

 動けなかった影響もあるだろうけど、細胞の多くが死滅している。

 おそらく残り寿命は、一、二年くらいだと見ていい。


「だとしても、私は生きられる。明日には死ぬかもしれなかった身体を、こうして動かし、君たちと話ができる。これほどの幸福はない」

「陛下……」

「ありがとう。遅くなったが、国王として君がこの国へ来てくれたことを歓迎する。レオル」


 陛下は優しく、しわだらけの顔で笑う。


「素敵な人を見つけてきたな」

「――はい。彼女と出会えたことこそ、俺にとって最高の幸運でした」


 レオル君は嬉しそうにそう語る。

 最高の幸運……か。

 笑ってしまう。

 彼がそう思ってくれていることに。

 私も……彼との出会いは運命だと感じていた。

 あの日、今は敵になった国で彼と出会わなければ、今頃私は独りぼっちで潰れていただろう。

 復讐する気力もなく、腐り果てていたかもしれない。

 私たちの出会いが、今この瞬間を作っている。


「レオル、皆も、私が倒れている間、この国をよく守ってくれた」

「当たり前ですよ、陛下」

「私たちはこの国で生まれ育ちました。今も、この国で生きています」

「俺は、父上が守ろうとしたものを守りたい。そのためなら何だってやれる。ここにいる者たちは皆、俺の馬鹿げた理想を信じてくれた……最高の仲間たちです」


 全てを奪われ滅びゆく国。

 多くの者たちが見捨て、去って行った場所に、今も尚残っている者たちがいる。

 ここにも、街にも、物好きな人たちはいる。

 端から見れば滑稽かもしれない。

 悪あがきかもしれない。

 だけど、小さな足掻きを積み重ね、備え挑み、いずれは大成する。


「本当に感謝している。君たちのおかげで、私の国はまだ残っているのだから」

「もう少しで、全て取り戻せますよ。陛下」


 私は言う。

 そして、私の声に合わせる様にもう一人、ムカつくけど頼りになる協力者が姿を現す。


「その通りだよ。さすがは俺の相棒」

「違うわ。ただの協力者よ」

「冷たいな~」

「貴殿は……グレスバレーの……」

「お目覚めになられたのですね、レイニグラン国王。こうしてお会いできる日を心待ちにしておりました」


 彼は丁寧にあいさつをする。

 事情を知らない陛下だけが困惑していた。


「これは一体……」

「彼も協力者です。セイレスト王国から奪われたものを取り戻すために、俺たちは動いているんです」

「まさか、そんなことが?」

「もうすぐ成ります。私たちの悲願は」


 私はシクロ殿下に視線を向ける。

 すると彼は視線で察し、笑みを見せて口を開く。


「ノースアイランド、ベリッカ、バーグル王国の協力は得られたよ」

「やるじゃない。思ったより早かったわね」

「彼らも感謝していたんだ。君のおかげ、大切な人たちが戻ってきたことをね。セイレストに不満があったのも同じだった」

「残り三つは?」

「現在交渉中。おそくても五日以内は堕とせるさ」


 八か国同盟が私たちの味方になる。

 その構図は奇しくも、かつてセイレスト王国がこの国に仕掛けた侵略作戦と似ている。

 当然、意図的だ。

 彼らが奪ったやり方で、私たちが今度は奪う。


「あと一歩よ、レオル君」

「ああ、父上!」


 レオル君はしわくちゃになった陛下の手を握る。

 決意を胸に、声に出す。


「見ていてください。必ずこの国を、全てを取り戻します! 父上にもう一度、賑わっているこの国を見てもらいたい」

「――レオル」


 時間は限られている。

 決して長くはない。

 それでも、一年もあれば十分だ。

 

 準備はしてきた。

 三年かけて忍び、この国に来てからも偽り続けて。

 ようやく花開く。

 遅咲きの満開は、さぞ見応えがあるはずだ。

 まだセイレストの国王にも、ミレーヌ家にも意趣返しをしていない。

 私自身の復讐も続いている。


「さぁ、始めるわよ」


 奪う者は常に、奪われる覚悟を持っていなければならない。

 その覚悟もないのに、奪うなど烏滸がましい。

 それを教えてあげましょう。

 不出来な積み木に支えられている国なんて、簡単に壊せてしまう。


 たった一人の、スパイにも気づけないのだから。

少しでも面白い、よーやった!と思って頂けたなら!

ページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から★を頂ければ嬉しいです。



※金曜くらいからエピローグ投稿します

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……え? これでおしまい? 嘘でしょ? クライマックス直前なのに? [一言] いくらなんでもこれは……
[気になる点] ルガルド王子の企みの結末が行方不明 [一言] 結末までどんな展開で行くのかとワクワクしながら読んでたら、 俺たちの戦いはこれからだ!的な終わりで少々物足りなさを感じました。
[一言] 「よーやった!」 いつかあのクソが約束破って呪い殺されるところやこの二人の仲がどう進展するのかも読んでみたいところです
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