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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
後編

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38.疑念

 何もかもが順調に進んでいる。

 国力の回復、資源も増えた。

 協力関係にある国も増えつつあり、セイレスト王国打倒の目的に近づいている。

 ルガルド殿下を脅迫し、こちらの命令に従わせることができた時点で、私たちの目的は大詰めとなる。

 あと少し、もう少しでたどり着く。


 そんな時、よくない流れがやってくる。


 安定していた国王陛下の容態が、急激に悪化した。


「ぐほっ、う……」

「父上!」


 ベッドの上で眠る陛下は、なんども吐血と嘔吐を繰り返している。

 ここ数日、ずっと眠っていた陛下は目覚めることはなく、ただただ苦しい声を上げていた。


「外に出ていてください、殿下。ここは私にお任せください」

「……頼みます」


 専属の医師に任せ、レオル君は陛下の部屋を後にする。

 一緒にいた私もレオル君と共に部屋を出た。

 陛下の容態は心配だけど、病が相手では魔法使いの私にどうすることもできない。

 病は医者の領分だ。

 

「はぁ……」

「大丈夫? レオル君」

「ああ、すまない。情けないところを見せてしまって」

「情けないなんて思わないわ」


 大切な人が死の危険にさらされているんだ。

 取り乱すことは当たり前だろう。

 優しい彼なら尚更、今までよく涙をこらえていると思う。

 私はレオル君と一緒に中庭を歩く。

 こういう時は部屋にこもるより、外で太陽の光を浴びたほうが落ち着く。

 レオル君はふいに立ち止まり、木陰に背を向けてもたれ掛かる。


「……これまでも何度か、容態が悪くなることはあったんだ」

「その時は?」

「なんとか持ち堪えた。カリブ先生が診てくれているおかげだ。もしいなかったら、きっと今頃会えない人になっていた」

「……そう」


 彼は心からカリブというあの医者を信じているらしい。

 確かに今も、容態が悪くなってすぐに駆け付けた。

 真摯に対応してくれている……ように見える。

 だけど、私はどうにも信用できなかった。

 レオル君には悪いと思う。

 それでも引っかかる。

 なんとなく、決定的な理由もなく、曖昧な疑念が胸に浮かんでいる。


 その後、再び陛下の容態は安定した。

 かに見えたが、カリブ医師から悲しい知らせが来る。

 その知らせを、私とレオル君は共に陛下の枕元で聞かされた。


「数日……ですか?」

「はい。大変申し上げにくいのですが、陛下のお身体はもう限界が近い。何度も今のような状態が続けば持ちません。おそらく後二度……いえ、一度でも容態が悪くなれば、その時に……」

「――っ! なんとも……ならないんですか?」


 カリブ医師は首を横に振る。


「残念ながら、治療法も定かではない難病です。加えて、私の知識にもない症状まで併発してしまっている。私の力ではどうすることもできません。他の国の医者でも……難しいでしょう」

「そう……ですか」

「本当に申し訳ありません。この国の医者として、陛下の命を救うことができず」

「そんな! カリブ先生のおかげで父上もここまで持ち堪えられたんです! 感謝しかしていません!」


 頭を下げるカリブ医師に、レオル君は優しい言葉をかける。

 カリブ医師も悔しそうな横顔を見せる。

 彼も必死に治療していたのだろうか。

 それなのにどうして、私は彼のことを信じられないの?

 自分の中で理由を探す。

 初めて見た時から感じている……この違和感は何?

 潜在的に彼を信じたくないと思う自分がいて、その奥底には敵だと決めつける感情がある。

 私が信じているレオル君が、カリブ医師を信じているのに。

 ここまで明確に、理由もないのに、敵視してしまうのは……。


「レオル君、少しだけ陛下の身体を見てもいいかしら?」

「――! アリスが?」


 ピクリと、カリブ医師が反応した。

 私はそれに気づきながら、構わず続ける。

 

「ええ。私は医者じゃないけど、人の身体のことは知っている。治癒魔法は病の完治には使えないけど苦しさや痛みを和らげたり、気休めになるかもしれない」

「俺は構わないよ。アリスのことは信じている」

 

 レオル君は話しながらカリブ医師に視線を向ける。

 医者である彼の意見も伺いたいようだ。

 カリブ医師は僅かに躊躇ったように目を逸らし、こくりと頷く。


「どうぞお願いします。苦しみの緩和ができるのなら、せめて安らかに」

「はい。ありがとうございます。少し集中したいので、お二人とも外に出ていてもらっても構いませんか?」

「ああ、終わったら呼んでくれ」

「ええ」


 話をつけ、二人が部屋から出て行く。

 私は眠っている陛下を見下ろし、右手をかざす。


「さて……」


 この懸念を解消する方法は、直接調べるしかない。

 レオル君の父親に対して、実験するみたいで申し訳ないけど。

 もし最悪の予想が当たっていたなら、逆に私の手で、少しだけ命を繋ぐことができるかもしれない。


「ふぅ……始めましょう」


 医者の治療ではない。

 魔法使いにできることは、魔法をかけることだけだ。

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