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28.恐怖は広がる

 某日、事件は起こる。

 セイレスト王国と同盟を結んでいる八か国から、次々と情報が入り込んでくる。

 その情報とは、ドラゴンの出現だった。


「聞いたか? またドラゴンが出たらしいぞ」

「ええ? 昨日もその話してなかったか?」

「また出たんだと。今度はアイスパイン王国の上空、しかも資源採掘場の近郊らしい」

「うえ、今度俺そこの警備に配属されたんだけど……」

「ご愁傷様。先に遺書でも書いとけ」

「縁起でもないこと言わないでくれよ!」


 王城、特に騎士団隊舎と宮廷ではこの話題が多くなっていた。

 もしもドラゴンが街や採掘所を襲うようなら、騎士や魔法使いが対処しなくてはならない。

 伝説の存在になりつつあるドラゴンと戦ったことがある者など皆無だ。

 未知を恐れる人間の心理によって、皆の不安が高まっていく。

 その声は当然、私たちの元にも届いていた。


「順調に広がっているみたいね」

「そうだね。恐ろしいものの情報は拡散が早くて助かるよ。ちなみに聞くけど、まだバレていないよね?」

「当然でしょ。そんなヘマはしないわ」

「さすがだよ。それでこそ俺の相棒だ」

「勝手に相棒にしないでくれる?」


 噂の原因を作っているのは、もちろん私たちだ。

 私が分身を使ってドラゴンに乗り、八か国の目立つ場所を飛び回っている。

 今はまだ襲撃するわけじゃない。

 ドラゴンが近くにいると見せつけているだけだ。

 恐怖を、不安を煽るように。

 そしてセイレスト王国がドラゴンの存在を認知しながら、手をこまねいているという状況を作りたかった。


「王国のほうは目立った動きはなし、そろそろいいんじゃない?」

「そうね。どこを狙いましょうか」


 狙う八か国はシクロ王子のいるグレスバレー以外の一か国。

 実際に襲撃する国は一つでいい。

 どこにするかは、まだ少し悩んでいた。


「俺のオススメはリッツバーグ王国だよ」

「どうして?」

「八か国の資源採掘場の中で一番大きく、この国から離れているから。その後のことを考えると都合がいい条件じゃないかな?」

「確かにそうね。いい案だわ」


 襲撃はあくまで計画のスタートラインに過ぎない。

 大事なのはその後の展開だ。

 一つでもズレれば計画は瓦解する。

 不安因子を取り除くためにも、彼の言うように条件が揃っている場所を襲ったほうがよさそうだ。


「じゃあ行ってくるわ。留守番をよろしく」

「え、もう行くのかい? せわしないなぁ」

「噂が新しいうちに次に進めたほうが印象に残るでしょう? こういうのは考える暇を与えちゃいけないの」

「それもそうか。気を付けていってらっしゃい」

「ええ」


 私は研究室の本体と、レイニグラン王国で待機していた分身を入れ替える。

 その後すぐに巣穴に転移して、寝ているドラゴンを呼び起こす。


「さぁ、暴れる時間よ」


 私はドラゴンの背に乗って飛び立つ。

 空中に飛び上がってから転移して、すでにマーキングを施したリッツバーグ王国資源採掘場の付近へ転移させる。

 これほど巨大なものを転移させるのは相当な魔力を消費するから、あまり乱発はできない。

 けど、いきなりドラゴンが上空に現れたら誰だって驚く。


「な、なんだ? 急に空が暗く……まさか――」

「ド、ドラゴンだぁ!」


 更なる恐怖を煽る。

 資源採掘場が騒がしくなり、働いている者たちが逃げ回る。

 護衛の騎士たちが採掘場を守護するため集まってきた。


「だ、大丈夫だ。この間も飛び回ってるだけで何もしてこなかった」

「ああ、今回も……」


 声は聞こえなくても、彼らがそう思っていることは手に取る様にわかる。

 だからその期待を、裏切ってあげましょう。


「ブレスよ。隣の山を崩しなさい」


 私の命令に従い、ドラゴンが顎を開く。

 以前は不発に終わった最大の一撃は、放たれていればあらゆる物を破壊した。

 こんな風に――


「う、うわああああああああああああ」

「撃ってきたぞ!」

「あんなの食らったら一たまりもない! 逃げろおおおおおおおおおおおお」


 騎士たちが尻尾を巻いて逃げ出してしまった。

 直接当てたわけでもなく、近くにあった山を一つ吹き飛ばしただけで。

 

「情けないわね。けど、それでいいのよ」


 恐怖は伝播する。

 ここで見たものを、彼らは他者に伝え聞かせる。

 誇張された内容で、より恐ろしく、しり込みするような出来事として。


 ドラゴンが資源採掘場を襲撃したニュースは瞬く間に広がった。

 セイレスト王国にとって資源は国民と同じくらい大切だ。

 必然、資源採掘場の警備を強化することとなる。

 これもすべては狙い通り。

 思った通りの動きをしてくれたおかげで、次の段階に進めることができそうだ。

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