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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
後編

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26.王子と王子

 調伏したドラゴンは巣に待機させる。

 さすがにこの巨体を王都に移動させれば、せっかく残ってくれている国民が逃げてしまうから。

 大仕事を終えた私たちは王城に戻っていた。


「どうして内緒にしていたの?」

「怒っているのか?」

「別にそうじゃないわ。少し寂しいとは思うけど」


 私だけ彼の目に宿る力を知らなかった。

 そのことを寂しいと思う……これは嫉妬という感情に違いない。

 遠く離れていても長い付き合いだ。

 私が多くを相談したように、彼もそうしてくれていると思っていた。

 だから寂しい。


「黙っていたことは謝るよ。相談しようと考えたこともある」

「じゃあどうして教えてくれなかったの?」

「……怖かったんだよ。君に避けられるんじゃないかって」

「どうして私が避けるのよ」


 口ではそう言いながら、彼の不安も理解できる。

 魔眼という力が世間一般でどう思われているか……もちろん私も知っている。

 宮廷なんて場所で働いていたんだ。

 普通の人よりも深く知識がある分、魔眼をどう見るかは差が生まれる。

 魔法の病、呪われた瞳。

 そんな風に言われ、魔眼持ちは忌み嫌われる。


「心外だわ。そんなことで私がレオル君を嫌いになると思ったの?」

「アリス……」

「レオル君だけだったのよ。私の努力を肯定してくれたのは……レオル君の言葉に何度も救われた。たとえあなたが誰でも、どんな姿をしていても、この感謝の気持ちは消えないわ」

「……ありがとう。そう言ってくれる君だから頼りになるんだ。黙っていて本当にすまなかった」


 レオル君は何度も頭を下げる。

 謝ってほしいわけじゃない。

 私はただ、彼に信じてもらえていなかったことが悲しいだけだ。

 子供みたいに苛立っている。


「もういいわ。他にはない? 黙ってること」

「ああ、誓ってない。この眼のことくらいだ……」


 彼は魔眼が宿る瞳を隠すように手を添える。

 その表情からわかるように、彼自身コンプレックスに感じているに違いない。

 世間一般の評価を、彼が一番気にしているのかも。 


「魔眼も一つの才能よ。どれだけ努力しても得られない。むしろ羨ましいくらいね」

「そんなこと初めて言われたな」

「子供の頃から隠していたの?」

「いや、実を言うと知らなかったんだ。俺にこんな力があるなんて」

「知らなかった?」


 彼は小さく頷く。

 魔眼の多くは先天性で、生まれながらに宿している。

 後天的に得られる事例はほぼない。

 特殊な条件が重なり、奇跡的に発現したのは私が知る限り一例だけだ。

 先天的に魔眼を持つ者の多くは、生まれた時に周囲が気づく。

 

「誰も気づかなかったっていうの?」

「そうらしいな。父上に聞いても知らなかったと答えた。俺が気づいたのは、数年前に外で魔物に襲われそうになった時だ。偶然力が発動して、なんとか生き延びた」

「死に瀕して力が覚醒した?」


 まさか後天性の魔眼?

 だとしたら魔法界にとっても一大ニュースだ。

 

「……その話、誰にもしちゃだめよ」

「わかってる。知ってるのは君を除けば父上とあの二人だけだ」

「そう、ならいいわ」


 もし露見すれば、彼の瞳に興味を持つ国が現れるかもしれない。

 王子としてではなく、魔眼持ちとして狙われる。

 ただでさえ敵が多いんだ。

 今以上に状況をややこしくしたくない。

 力を隠すことは、彼を守ることにも繋がるだろう。

 そういう意味では、私に黙っていたことを責められないな。


「それで、ドラゴンを使ったいい方法を思いついたって話だけど、そろそろ教えてくれないか?」

「いいわ。ただ話す前に、会ってほしい人がいるの」

「珍しいな。君が俺に他人を紹介するのは初めてじゃないか?」

「そうね。できれば会わせたくなかったわ。けど、利用価値は高いもの」


 レオル君は難しい表情をしてキョトンと首を傾げる。

 この時点ではわからないだろう。

 私が誰を連れてきているのか。

 本当は気乗りしないし、会わせてしまって平気なのか不安はある。

 ただ、これから行う作戦に彼の協力は不可欠だ。

 幸いにも、その目的は似ている。

 

「もう呼んである。入れていいかしら?」

「ああ、構わない」

「――だそうよ」

「待ちくたびれたよ」


 彼は扉から入ってこない。

 演出なのか、目立ちたがり屋なのか。

 いつの間にか窓が開いていて、彼がそこに立っていた。

 風が吹き、紫色の特徴的な髪がなびく。


「アリス、彼がそうなのか?」

「ええ」


 レオル君も彼の独特な雰囲気を感じているのだろう。

 私も、初めて言葉を交わした時はこう思った。

 この男、胡散臭いと。

 ただ、その正体を知ってから、少しだけ認識を変えざるを得なかった人物でもある。


「お招きいただき感謝します。まず初めに自己紹介を。私はグレスバレー王国の第一王子、シクロ・グレイセス」

「――! 八か国の王子……そうか、貴殿がアリスが話していた協力者」

「はい」


 敵国の王子同士が一つ屋根の下で対面する。

 果たして、この選択は正しかったのか。

 異様な空気が流れる中で、二人の対話を見守る。

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