23.あなたに言われたくないわ
ドラゴンとは飛竜種、魔物の頂点に位置する存在。
幻想、空想で語り継がれる存在は、物語の中の存在では決してない。
彼らは実在する。
この広大な世界のどこかで。
セイレスト王国で働いている時、一年に数回の目撃情報は確認されていた。
私も一度くらい見てみたいと、自分で探したことがある。
だけど見つからなかった。
出会えるかどうかは運が絡んでくる。
そんな現実が伝説へと昇華されつつある存在を……。
「ドラゴンを見つけたっていうの?」
「おう。見つけたぜ、巣穴をよぉ」
「巣穴だけ? ドラゴンはいなかったの?」
ドラゴンという存在に興味が湧いた私は前のめりで質問する。
アレクはニヤリと笑みを浮かべて答える。
「いたぜ。黒いのがな」
「――!」
ドラゴンの中でも特に貴重と言われている黒個体、ブラックドラゴン。
それを資源探索のついでに発見するなんて、どれだけ運がいいの?
いいや、逆か。
運が悪すぎるんだ。
彼らが探索していたのは未開拓地、それもセイレスト王国に奪われなかった数少ない領地の一部。
狭くなってしまった領土の中で、強大な魔物が住んでいる。
そんな事実を知られたら、今いる国民も怖がって逃げてしまいかねない。
なるほど、だからレオル君は深刻な顔をしていたのか。
「それで、戦ったの?」
「オレは戦おうとしたんだぜ? 目の前で寝てやがったからなぁ。けどこの弱虫野郎が引き留めやがったんだ」
「馬鹿ね。あんなのに二人で勝てるはずないでしょ。碌な準備もしないで」
「んなもんやってみねーとわかんねーだろうが! 強いほうが勝つんだ。オレのほうが強ければ勝ってたぜ!」
エミリーが特大のため息をこぼしている。
よほど苦労したのだろう。
ドラゴンという強敵を前に、この戦闘馬鹿が素直に引き下がるはずがない。
出会って数分でアレクの人間性が大体わかってきた。
「賢明な判断ね。寝ていてもドラゴンの感覚器官は鋭い。敵意を持って近づけば、返り討ちにあっていたはずよ」
「へぇ、そうなのか。詳しいじゃねーか」
「前に調べたことがある。ちょうど魔物を使役する魔法を作ったばかりだったから、ドラゴンを手に入れられないかなって。探したけど見つからなかったわ」
あの時にドラゴンを見つけていれば、王城に放って破壊の限りを尽くしていたかもしれない。
いいや、きっとレオル君に止められていただろう。
無用な殺戮を優しい彼は好まない。
ふと三人に視線を向ける。
なぜか三人とも、珍しいものを見るような眼で私を見ていた。
「なに?」
「ははっ、ここにもいたじゃねーか。面白いこと考えるやつ!」
「魔物を使役って、そんな魔法を開発してたんですか? どうやって?」
「俺の知らないうちに怖いことしてたんだな。無事でよかったよ」
三者三様の反応を見せる。
アレクとエミリーは興奮気味で、レオル君はホッとしていた。
何か変なことを言っただろうか。
私は彼らの反応が理解できずにキョトンとする。
「なんで驚いてんだって顔だな。お前見かけによらず面白い奴なんだな。気に入ったぜ」
「だから何?」
「普通は誰も考えねーんだよ。魔物、しかもドラゴンを捕まえようなんてな! まず無理だって諦める! 捕まえるなんて倒すより難しい! それを実行しようとしたんだろ? イカレてやがるぜ」
「初対面の相手に喧嘩吹っ掛けてくる男に言われたくないわね」
イカレてるなんて初めて言われたわね。
スパイ活動なんてやってるから、強く否定できないのが悲しいけど。
この男にだけは言われたくない。
私は視線をレオル君に向ける。
彼は肘枕を突いて何やら真剣な顔で考えていた。
「どうかしたの? レオル君」
「……アリス、もしも可能なら、なんだが……君の魔法なら、ドラゴンを手懐けられるのか?」
私は少し驚いた。
レオル君からそんな質問が来るとは思っていなかったから。
彼は真剣に、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
聞くかどうか悩んだ末に絞り出したのだろうか。
「できると思うわ。やったことはないけど」
「討伐と捕獲、どっちのほうが可能性が高い?」
「そうね……私の魔法を使うにはある程度は弱らせないといけないけど……」
空想の中でドラゴンを思い浮かべる。
想定するサイズ、破壊力、魔力量……今の私の実力と、ここにいる戦力。
討伐と捕獲、どちらがベストか。
ふと、私の脳内には面白いビジョンが浮かぶ。
実現することができれば、セイレスト王国への意趣返しになりそうだ。
私はニヤリと笑みを浮かべる。
「捕獲のほうが、今後に役立ちそうね」
「……そうか」
「いいじゃねーか! ドラゴンの捕獲! オレにも参加させろよ」
「足手まといにならないならね」
「上等だぜ。おいエイミー! お前も参加しろよ」
「ちょっ、勝手に……まぁでも、このまま放置もできないですしね。あとは殿下が決めてください」
私たち三人の視線がレオル君に集中する。
結局、この場で決定権を持っているのは王国の代表者だ。
私は彼の指示に従う。
他の二人も、レオル君の言葉を待つ。
レオル君は眉間にしわを寄せ、悩みながら口を動かす。
「――頼めるか? みんな」
「ええ」
「おうよ!」
「わかりました」
こうして、ドラゴン捕獲作戦を決行することになった。






