22.斜め上の発見
「いきなり何?」
「いい魔力してやがる。お前ならオレを楽しませてくれそうだぜ」
「さっきから意味がわからないわ」
男は不敵な笑みを浮かべて私を見下ろす。
対する私も視線を逸らさず睨む。
同僚にいいイメージは初めからなかったけど、ここまで突き抜けていると清々しい。
「いいねぇ。オレを前にして一歩も引かない胆力も気に入った。よし、今すぐにバトぶっ!」
「え?」
今度は何?
いきなり男が前のめりに倒れ込んできた。
どうやら後ろから何かされたらしい。
その犯人は小柄で、メガネをかけている女性だった。
「エイミー! てめぇ何しやがる!」
「こっちのセリフですよ。初対面の、しかも女性に戦いを挑むなんてどういう神経してるんですか? 野獣ですか? それは見た目だけにしてください」
大人しそうに見えて結構な毒舌だった。
当然、言いたい放題な彼女に大きな男も怒る。
「オレのどこが野獣だ! せめて猛獣と言え!」
「そこなの?」
「あ、すみませんいきなり! この馬鹿アレクはいっつもこうなんですよ。私はエイミーって言います。ほらアレク! まずは自己紹介でしょ」
「んなもん戦って強さを見てからでいいだろうが」
「何言ってるの? まずは挨拶が基本でしょ? 強さなんてどっちでもいいじゃない」
「バーカてめぇ! 魔法使いにとっちゃ強さが一番大事だろうが!」
「そう思ってるのはアレク一人だと思いますよ」
ガミガミと二人が目の前で言い争いを始めてしまう。
私は何を見せられているのか。
戸惑っていると、後ろでクスクスと笑っているレオル君が見えた。
「レオル君」
「あ、悪い。こういう奴らなんだ。面白いだろ?」
「面白くないわよ」
笑っていないでこの場を納めて、と視線で訴えかける。
レオル君はわかったと頷く。
「二人ともじゃれ合うなら外でやってくれ」
「じゃれ合ってねーよ!」
「じゃれ合ってません!」
「相変わらず息ピッタリだな」
レオル君は楽しそうに笑う。
どこか家臣と王子という立ち位置に見えないのは気のせいだろうか。
「改めて紹介するよ。こっちのでかいのがアレク。戦いが大好きで強そうなやつを見つけるとすぐ喧嘩をふっかける問題児だ」
「誰が問題児だ」
「それで隣の彼女がエイミー。アレクの世話係……? 飼い主か?」
「大体それで合っていますね」
「おいレオル、お前一回表に出ろ」
「こらアレク。王子相手にその口の利き方はダメですよ」
飼い主というより子供と親に見えてきた。
二人ともレオル君の前でも堅苦しい感じを見せず、大きい男のアレクに関しては不遜も甚だしい。
ただの宮廷魔法使い、というわけじゃなさそうだ。
その答えはレオル君の口から聞くことになる。
「二人とも俺の幼馴染なんだ。昔からよく遊んでたから、その名残が今でも残ってる」
「そういうことね」
納得したわ。
この二人の距離の近さと、レオル君に対する態度も。
「二人とも、彼女がアリスだ」
「おう、聞いてるぜ! セイレスト王国に潜り込んでた凄腕の魔法使いなんだろ! だから一戦やろうぜ!」
「もうアレクは黙ってて。殿下から話は伺っています。大変な任務お疲れ様でした。発魔所の修繕のことも聞いています。未熟な私たちに代わって、本当にありがとうございます」
「ただ仕事をしただけよ。気にしなくていいわ」
エイミーのほうは比較的しっかりしている人みたいだ。
隣に猛獣みたいな男がいるせいで、彼女の普通さが際立って見えるのかも。
自分を未熟だと言えることも、宮廷付きという地位におごっていない証拠で、印象は悪くない。
アレクのほうが印象最悪すぎて対比になっている。
今さらだけど、初対面なのに敬語を使い忘れていた。
いきなり喧嘩を売られたせいで調子が狂う。
もっとも、二人とも気にしていないみたいだし、私も楽だからこのまま行こう。
「アリスさんは、もう完全にこちらで活動しているんですか?」
「基本はそうよ。けど今はもう一度、セイレストの宮廷に潜入しているわ」
「へぇすげえな! 向こうで派手に暴れてんのか?」
「まだよ。それはいずれ……ね」
アレクはニヤリと笑みを浮かべる。
「はっ! その時はオレも混ぜてくれよ! 暴れるのは得意だぜ」
「嫌よ」
「は? なんでだよ」
「邪魔してほしくないからよ。だってあなた、言うこと聞いてくれそうにないし」
「ホントそうなんですよ」
「やっぱり」
エイミーがため息をこぼす。
その横でガーガーとアレクが騒いでいるけど無視。
どうやら苦労しているらしい。
アレクは無理だけど、エイミーとは仲良くしてもいいかなと思う。
「二人は今まで資源探索に行っていたのよね?」
「はい。未開拓の地を中心に回っていました」
「見つかったの?」
「あ、それが、見つかったというか……そうじゃないというか……」
エイミーから歯切れの悪い言葉が返ってくる。
私は首を傾げる。
結局どっちなのかと。
すると無視していたアレクが大声で、自慢げに語り出す。
「資源は見つかんなかったがいいもんはあったぜ!」
「……一応聞くけど、何?」
どうせ大したものじゃないでしょう。
と、馬鹿にする気でいた。
「ドラゴンの巣だ!」
「――え?」
そんな私の予想を遥か斜めに超えてくる。
馬鹿にするつもりだった思考回路は一気に吹き飛んでしまった。






