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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
後編

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21/45

21.いきなり喧嘩?

「グレスバレーの第一王子!?」


 レオル君が過去最大級の驚きを表情に表す。

 宮廷潜伏初日を終えて、何があったか報告した直後のことだった。

 驚かれるとは思っていたけど、ここまで盛大にビックリするのは意外だった。


「予想外過ぎるだろう。まさか八か国の王子が……」

「私も驚いたわ」

「……全然そうは見えないけどな」

「今はもう時間が経ってしまったから。聞いた時はちゃんと驚いたわよ」


 レオル君ほどではなかったけど。

 私は彼に、ウルシス……いいえ、シクロ王子から聞いた内容も伝えてある。

 それを思い出しながら、レオル君は顎に手を添えて考える。


「望んで協力したわけじゃない……か」

「どこまで本当のことを言っているかはわからなかったわ。けど……」

「ああ、わざわざ素性を偽って潜入してる。少なくとも王国に対して好意的じゃないのは確かだな」

「私もそう思ったから一先ず協力することにしたわ」


 と言っても、具体的に何をするわけじゃない。

 あの後研究室に戻り、仕事しながら彼とは話し合った。

 結論、今はお互いに仕込みの時期だから、下手に動かないほうがいいということになった。

 私たちは新入り、まだ部外者に近い。

 まずは宮廷という職場に溶け込み、ある程度の自由が利く信頼を勝ち取る。

 私も同意見だった。


「信用できるのか?」

「まだわからないわ。今後の行動次第ってところね」


 どの道、お互いにばれたら大変なことになる。

 素性を隠している以上、協力せざるを得ない。

 

「どうせ目立った動きはすぐにできないから大丈夫よ」

「ならいいが、くれぐれも」

「わかっているわ。心配してくれてありがとう」

「俺には心配することくらいしかできないからな」


 そう言いながら切なげに目を伏せる。

 彼のことだから、自分も一緒に無茶ができたら、とか考えていそうだ。

 

「レオル君にはレオル君の仕事がある。私は私にやれることをするだけよ」

「――ああ」


 後ろめたさを感じる必要はない。

 少しでもそう伝えられたら、それでいい。


「あ、そうだ。君に伝えておくことがあったんだ」

「何?」

「明日、君の同僚が二人帰ってくるよ」

「同僚……? ああ、資源探索に行っているって話にあった」


 他の宮廷魔法使いのことか。

 この国に来てそれなりに時間が経過して、すっかり馴染みだして忘れていた。

 そういえば私以外にもいるんだ。


「予定通りだと明日の夕方には到着する」

「それなら間に合いそうね。どんな人たちなの?」

「面白い奴らだよ。きっと仲良くなれる」

「そう。レオル君が言うならきっとそうなのね。楽しみにしているわ」


 口ではそう言いつつ、実はあまり興味がなかった。

 セイレスト王国で働いていた頃から、同僚という存在へのイメージはよくない。

 一応、同じ職場で働く仲間だ。

 でも実際は仲間なんて言葉は名ばかりで、まったく助け合いもない。

 私が遅くまで残業しているのを知りながら、自分たちはさっさと帰る。

 そういう人たちばかりだった。

 レオル君には悪いけど、他の二人がどんな人たちでも、私は一人でなんでもするつもりでいた。


  ◇◇◇


 翌日の夕刻。

 私はセイレストの宮廷で働いていた。

 胡散臭い男、グレスバレー王国の王子様と一緒に。


「今日はここまでね。帰りましょう」

「ん? もうそんな時間か。う、うーん……今日も疲れたね」

「お疲れ様」

「帰り支度が早いね。君はまったく疲れてなさそうだ」


 彼はニヤっと相変わらず胡散臭い笑顔を見せる。


「これくらい普通よ。あなたこそ、王子の癖に魔法使いの職務もできるのね」

「勉強したからな。ここへ来るために」

「……そう」


 きっと、本当に努力したのだろう。

 魔法使いとしての実力は、試験の時に垣間見せている。

 私を最初は欺いた幻覚魔法も一流だった。

 才能だけでは得られない強さを身に着けている。

 そうだとわかっても、なんとなく認めたくなくて皮肉を言う。


「王子も案外暇なのね」

「こっちは国王がまだまだ現役だからね。俺の仕事なんてたかが知れてる。だからこうして勝手に動けるんだよ」

「そう。まぁ、他所の国の事情なんてどうでもいいわ」


 私はそそくさと研究室を出ようとする。


「あれ? もう帰っちゃうの? 途中まで一緒に帰らない?」

「嫌よ」


 キッパリと断り、私は廊下に出る。

 どうせ人気のない場所に移動したら転移する。

 一緒に帰宅する理由がない。

 あと普通に面倒くさい。


「……」


 道中、元々私が使っていた研究室の前を通りかかる。

 微かに部屋の灯りが漏れていた。

 中にはきっと、システィーナがいる。

 私は歩く速度を変えず、その場を通り過ぎた。

 今はまだ、誰とも関わるつもりはない。

 いずれ必ず相対した時に、疲れきった顔を見せてもらいましょう。


 私はいつも通りに外へ出て、人気のない路地に入り転移魔法を発動させた。

 レイニグラン王国の研究室に移動する。

 念のために残しておいた分身も消して、記憶を共有する。


「特に何もなかったみたいね」


 その後すぐに、レオル君がいる執務室へと向かう。

 今日は同僚が帰還する日らしい。

 あまり興味はないけど、挨拶くらいはしっかりしておこうと思った。

 執務室にたどり着き、扉をノックする。


「レオル君、私よ」

「――入ってくれ」


 扉を開ける。

 手をかけた時から、他にも人がいることは気づいていた。

 扉の向こうで、レオル君が椅子に座り難しい顔をしている。

 その前には二人の見知らぬ男女が立っていた。

 

「――へぇ、こいつが噂の新入りか」


 中に入って早々に、ガタイのいい男と目が合う。

 彼は無造作に距離を詰めてきた。


「お前、強そうだな! オレと戦ってくれよ!」

「――は?」


 これまた予想外。

 いきなり同僚に喧嘩を売られるなんて……。

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