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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
前編

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20/45

20.敵国の王子

 翌日から、私たちは宮廷魔法使いの一員となる。

 本来は見習い過程を経て正式に任命されるのだけど、一般の試験に合格した者は即戦力として扱われるため、見習い過程を免除される。

 これはいいことばかりでもない。

 見習い過程がないということは、入っていきなり大量の仕事を任せられるということだ。


「お二人にはこちらの仕事を今後請け負っていただきます」

「わぁ、多いですね」

「……」


 私たちに仕事の説明をしてくれたのは、宮廷魔法使いを牛耳る室長さんだ。

 この人は実力主義だから、私にも普通に接してくれていた。

 ただ、頼めばやってくれるからという理由で、次々に新しい仕事を回されたのは、普通に嫌がらせかと思ったけど。

 後から思えば、他に頼れる人員がいなかっただけだ。

 彼女も大変なのだろう。

 よく遅くまで仕事をしている姿を見ている。


 そして、肝心の仕事内容だ。

 どう見ても、私がかつて請け負っていたものばかり。

 本来なら後任であるシスティーナがやらなければならない仕事だった。

 

「新しい職場でわからないこともあると思います。その時は先輩に聞いてもらって構いません。それと、この仕事はあくまでお二人にお任せしたものです。お二人で協力して行ってください」

「わかりました」

「説明ありがとうございます。ちなみに、研究室も共同ですか?」


 ウルシスが質問する。

 そこは私も気になっていたからいい質問だ。

 できれば別々がいい。


「はい。申し訳ありませんが、部屋の数に余りがありません。しばらくは共同で使ってください」

「わかりました」

「……」


 つまり仕事中、基本ずっとこの男と一緒にいないといけないのか。

 いきなり不安が膨れ上がる。

 室長がいなくなり、早々に二人きりになった。 


「という感じらしいから、仲良くしようね」

「……」

「うわぁ、嫌そうな顔。そんなに俺と一緒は嫌だった?」

「胡散臭い男と一緒になんて誰も喜ばないわよ」

「酷いな~ まっ、別にいいけどね。すぐ仲良くなれると思うし」


 そう言って彼はニコリと微笑む。

 笑顔までも胡散臭い。

 この男、本当に何者なのか。

 できるだけ早く正体を知るか、遠くへ追いやりたい。


「それで、何からする? 俺はよくわかんないから、君が決めていいよ」

「……じゃあ、発魔所に行きましょう」

「了解」


 私は以前までやっていた仕事の手順を思い出し、最初に一番重要な発魔所のチェックへ向かうことにした。

 街中に魔力エネルギーを供給する場所だ。

 本来なら、こんな新人に任せていい仕事じゃない。

 よほど頼れる人材が不足していると見える。

 システィーナは何をしているのだろうか。

 そういえば一度も顔を見ていないな。

 

「さすが王都の発魔所、でかいなー」

「順番に見ていくわよ」


 でも、ここの管理を任されたのはラッキーだ。

 レイニグラン王国と繋がる魔法式の確認もできる。

 願わくば一人がよかった。


「へぇ、随分と手慣れてるよね」

「そう? 普通だと思うわ」

「そんなことないよ。だってこの魔法式は特殊だ。たぶんこの国特有のものだろう? それと見ただけで把握する。まるで知っていたみたいに」

「……何がいいたいの?」


 ピタリと作業を止めて、私たちは向き合う。

 適度な距離を保ち。

 周囲には少し離れたところに見張りの騎士がいるだけで、大声を出さない限り届かない。


「ずっと気になってたんだよね、君のこと」

「……どういう意味で?」

「君って誰なんだろうなーって、わからなかったんだよね。そこまで完璧な幻覚魔法を使える人に心当たりがなかったから」

「――!」


 やっぱりこの男、気づいている。


「見えてるのね。本当の私が」

「ああ、一度気づいてからは常にね。わざわざ偽装しなくてもいいのに、すごく綺麗だと思うよ」

「お世辞はいいわ」

「お世辞じゃないんだけど」


 彼は微笑む。

 今のところ敵意はない。


「……あなたこそ、そっちの方がいいと思うわよ」

「ああ、気づくよね」


 そう、彼も同じだ。 

 私のように姿を偽っている。

 本来の姿は紫の髪と瞳が特徴的で、どこか高貴さを感じられる。

 醸し出す雰囲気も、所作も、一般人ではない。


「あなたこそ何者なの?」

「先に聞こうとしたのは俺だよ?」

「答えてほしいなら、先にそっちが教えなさい」

「豪快だな。そういうのは嫌いじゃない。まぁ、こんな場所に潜入している時点で、王国にとっては敵側だよね?」


 そこはおそらく一致している。

 問題は、目的が近いのか、それとも……。


「俺の名前は――シクロ・グレイセス」

「グレイセス……八か国同盟の!」

「そう。八つの国の一つ、グレスバレー王国の第一王子だよ」


 予想の斜め上を行く。

 常人ではないことはわかっていたけど、まさかだ。

 かつてレイニグラン王国を侵略した八つの国、セイレスト王国の手駒になった小国。

 しかも王子が……。


「どうしてこんな真似を?」

「その質問は次だ。名乗ったんだ。そっちも教えてくれないか?」

「……」


 どうする?

 素直に名乗ってもいいのだろうか。

 相手は八か国の王子だ。

 立場だけで見れば、確実に敵。


「不安はわかる。けど、名乗った意味と、ここにいることを考えてくれ。俺たちは……協力できるんじゃないか?」

「――!」


 その可能性に、私は賭けるべきか。

 頭の中で情報と感情が渦巻く。

 目の前にいる彼を信じられるか。

 それは無理だ。

 けれど、初めて会った時からずっと、他人だとは思えなかった。


「私は元セイレスト王国宮廷魔法使い。現レイニグラン王国の宮廷魔法使い、アリスティア・ミレーヌよ」

「――アリスティア……その名は知っている。やっぱり君が、この魔法式を作った本人だったか」

「へぇ、他国の王子にも知られていたのね。光栄だわ」

「知っているさ。君の考案した魔法はこっちでも使われているからね。そんな君がなぜ、レイニグランの人間になったのか、気になるな」


 彼は笑みを浮かべて目を細める。

 私はちらっと警備の騎士を確認する。

 まだ遠く、私たちの会話には気づいていない。


「今度はそっちの番よ。あなたの目的は何? どうして身分を偽って宮廷に入ったの?」

「――たぶん、同じだよ」

「同じ?」

「君がレイニグランの人間ならそうだろう? 俺はこの国から、グレスバレーを解放する。奪われた者を取り戻して」


 本当に、他人だとは思えない。

 その目的まで、私たちは重なっている。


「どういうこと? あなたの国は望んで迎合したのではなくて?」

「違うさ。俺たちは脅されていた。従わなければ滅ぼされると。他の国だって似たようなものだろう。現に俺の妹は、人質としてルガルド王子の愛妾にされている」

「愛妾!?」


 あの王子……婚約者を複数持つ以外にそんなことまでしているの?

 どれだけ色ボケ野郎なのかしら。

 同じ王子でもレオル君とは大きな差ね。


「取り戻すっていうのは妹さんね」

「ああ。必ず取り戻す。父上は臆病で何もできないが、俺は違う。たとえどんな手段を使っても取り戻す」


 初めて見せる表情だった。

 固い決意を感じさせ、拳を握りしめる。

 その言葉に嘘はなさそうだ。


「君はどうなんだ? 多くを奪われた国の間者がここにいる。その目的は?」

「――決まってるわ」


 この場ではもはやわかりきった答えだ。


「奪い返しに来たのよ」

「――やっぱり同じだ。俺たちが出会ったのは奇跡だ。だからこそ、協力できるんじゃないか?」

「……」

「俺たちの目的は重なっている。この国を内側から切り崩して、大国の地位を陥れてみせる」


 確かに、目的は同じだ。

 あとはもう、信じるか信じないかの差でしかない。

 彼の言葉を、表情を……どう受け取るか。


 いいや、そうじゃない。

 私は後戻りできない場所に踏み込んでいる。

 ならばやることは変わらない。

 何を利用してでも、目的を達成する。


「いいわ。協力してあげる」


 敵なら敵で構わない。

 全部まとめて相手をしてでも、私はレオル君の理想を手助けするから。


 こうして、敵地にて新たな共犯関係が生まれる。

 この選択が吉となるか凶となるかは……まだわからない。

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『«引きこもり錬金術師は放っておいてほしい» 妹に婚約者を奪われ研究に専念できると思ったのに、今度はイケメン王子様に見つかって逃げ出せません……』

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