20.敵国の王子
翌日から、私たちは宮廷魔法使いの一員となる。
本来は見習い過程を経て正式に任命されるのだけど、一般の試験に合格した者は即戦力として扱われるため、見習い過程を免除される。
これはいいことばかりでもない。
見習い過程がないということは、入っていきなり大量の仕事を任せられるということだ。
「お二人にはこちらの仕事を今後請け負っていただきます」
「わぁ、多いですね」
「……」
私たちに仕事の説明をしてくれたのは、宮廷魔法使いを牛耳る室長さんだ。
この人は実力主義だから、私にも普通に接してくれていた。
ただ、頼めばやってくれるからという理由で、次々に新しい仕事を回されたのは、普通に嫌がらせかと思ったけど。
後から思えば、他に頼れる人員がいなかっただけだ。
彼女も大変なのだろう。
よく遅くまで仕事をしている姿を見ている。
そして、肝心の仕事内容だ。
どう見ても、私がかつて請け負っていたものばかり。
本来なら後任であるシスティーナがやらなければならない仕事だった。
「新しい職場でわからないこともあると思います。その時は先輩に聞いてもらって構いません。それと、この仕事はあくまでお二人にお任せしたものです。お二人で協力して行ってください」
「わかりました」
「説明ありがとうございます。ちなみに、研究室も共同ですか?」
ウルシスが質問する。
そこは私も気になっていたからいい質問だ。
できれば別々がいい。
「はい。申し訳ありませんが、部屋の数に余りがありません。しばらくは共同で使ってください」
「わかりました」
「……」
つまり仕事中、基本ずっとこの男と一緒にいないといけないのか。
いきなり不安が膨れ上がる。
室長がいなくなり、早々に二人きりになった。
「という感じらしいから、仲良くしようね」
「……」
「うわぁ、嫌そうな顔。そんなに俺と一緒は嫌だった?」
「胡散臭い男と一緒になんて誰も喜ばないわよ」
「酷いな~ まっ、別にいいけどね。すぐ仲良くなれると思うし」
そう言って彼はニコリと微笑む。
笑顔までも胡散臭い。
この男、本当に何者なのか。
できるだけ早く正体を知るか、遠くへ追いやりたい。
「それで、何からする? 俺はよくわかんないから、君が決めていいよ」
「……じゃあ、発魔所に行きましょう」
「了解」
私は以前までやっていた仕事の手順を思い出し、最初に一番重要な発魔所のチェックへ向かうことにした。
街中に魔力エネルギーを供給する場所だ。
本来なら、こんな新人に任せていい仕事じゃない。
よほど頼れる人材が不足していると見える。
システィーナは何をしているのだろうか。
そういえば一度も顔を見ていないな。
「さすが王都の発魔所、でかいなー」
「順番に見ていくわよ」
でも、ここの管理を任されたのはラッキーだ。
レイニグラン王国と繋がる魔法式の確認もできる。
願わくば一人がよかった。
「へぇ、随分と手慣れてるよね」
「そう? 普通だと思うわ」
「そんなことないよ。だってこの魔法式は特殊だ。たぶんこの国特有のものだろう? それと見ただけで把握する。まるで知っていたみたいに」
「……何がいいたいの?」
ピタリと作業を止めて、私たちは向き合う。
適度な距離を保ち。
周囲には少し離れたところに見張りの騎士がいるだけで、大声を出さない限り届かない。
「ずっと気になってたんだよね、君のこと」
「……どういう意味で?」
「君って誰なんだろうなーって、わからなかったんだよね。そこまで完璧な幻覚魔法を使える人に心当たりがなかったから」
「――!」
やっぱりこの男、気づいている。
「見えてるのね。本当の私が」
「ああ、一度気づいてからは常にね。わざわざ偽装しなくてもいいのに、すごく綺麗だと思うよ」
「お世辞はいいわ」
「お世辞じゃないんだけど」
彼は微笑む。
今のところ敵意はない。
「……あなたこそ、そっちの方がいいと思うわよ」
「ああ、気づくよね」
そう、彼も同じだ。
私のように姿を偽っている。
本来の姿は紫の髪と瞳が特徴的で、どこか高貴さを感じられる。
醸し出す雰囲気も、所作も、一般人ではない。
「あなたこそ何者なの?」
「先に聞こうとしたのは俺だよ?」
「答えてほしいなら、先にそっちが教えなさい」
「豪快だな。そういうのは嫌いじゃない。まぁ、こんな場所に潜入している時点で、王国にとっては敵側だよね?」
そこはおそらく一致している。
問題は、目的が近いのか、それとも……。
「俺の名前は――シクロ・グレイセス」
「グレイセス……八か国同盟の!」
「そう。八つの国の一つ、グレスバレー王国の第一王子だよ」
予想の斜め上を行く。
常人ではないことはわかっていたけど、まさかだ。
かつてレイニグラン王国を侵略した八つの国、セイレスト王国の手駒になった小国。
しかも王子が……。
「どうしてこんな真似を?」
「その質問は次だ。名乗ったんだ。そっちも教えてくれないか?」
「……」
どうする?
素直に名乗ってもいいのだろうか。
相手は八か国の王子だ。
立場だけで見れば、確実に敵。
「不安はわかる。けど、名乗った意味と、ここにいることを考えてくれ。俺たちは……協力できるんじゃないか?」
「――!」
その可能性に、私は賭けるべきか。
頭の中で情報と感情が渦巻く。
目の前にいる彼を信じられるか。
それは無理だ。
けれど、初めて会った時からずっと、他人だとは思えなかった。
「私は元セイレスト王国宮廷魔法使い。現レイニグラン王国の宮廷魔法使い、アリスティア・ミレーヌよ」
「――アリスティア……その名は知っている。やっぱり君が、この魔法式を作った本人だったか」
「へぇ、他国の王子にも知られていたのね。光栄だわ」
「知っているさ。君の考案した魔法はこっちでも使われているからね。そんな君がなぜ、レイニグランの人間になったのか、気になるな」
彼は笑みを浮かべて目を細める。
私はちらっと警備の騎士を確認する。
まだ遠く、私たちの会話には気づいていない。
「今度はそっちの番よ。あなたの目的は何? どうして身分を偽って宮廷に入ったの?」
「――たぶん、同じだよ」
「同じ?」
「君がレイニグランの人間ならそうだろう? 俺はこの国から、グレスバレーを解放する。奪われた者を取り戻して」
本当に、他人だとは思えない。
その目的まで、私たちは重なっている。
「どういうこと? あなたの国は望んで迎合したのではなくて?」
「違うさ。俺たちは脅されていた。従わなければ滅ぼされると。他の国だって似たようなものだろう。現に俺の妹は、人質としてルガルド王子の愛妾にされている」
「愛妾!?」
あの王子……婚約者を複数持つ以外にそんなことまでしているの?
どれだけ色ボケ野郎なのかしら。
同じ王子でもレオル君とは大きな差ね。
「取り戻すっていうのは妹さんね」
「ああ。必ず取り戻す。父上は臆病で何もできないが、俺は違う。たとえどんな手段を使っても取り戻す」
初めて見せる表情だった。
固い決意を感じさせ、拳を握りしめる。
その言葉に嘘はなさそうだ。
「君はどうなんだ? 多くを奪われた国の間者がここにいる。その目的は?」
「――決まってるわ」
この場ではもはやわかりきった答えだ。
「奪い返しに来たのよ」
「――やっぱり同じだ。俺たちが出会ったのは奇跡だ。だからこそ、協力できるんじゃないか?」
「……」
「俺たちの目的は重なっている。この国を内側から切り崩して、大国の地位を陥れてみせる」
確かに、目的は同じだ。
あとはもう、信じるか信じないかの差でしかない。
彼の言葉を、表情を……どう受け取るか。
いいや、そうじゃない。
私は後戻りできない場所に踏み込んでいる。
ならばやることは変わらない。
何を利用してでも、目的を達成する。
「いいわ。協力してあげる」
敵なら敵で構わない。
全部まとめて相手をしてでも、私はレオル君の理想を手助けするから。
こうして、敵地にて新たな共犯関係が生まれる。
この選択が吉となるか凶となるかは……まだわからない。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『«引きこもり錬金術師は放っておいてほしい» 妹に婚約者を奪われ研究に専念できると思ったのに、今度はイケメン王子様に見つかって逃げ出せません……』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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