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18.胡散臭い男

 二つの試験が終わり、合否は一時間後に発表される。

 それまで志願者は待合室で待機する。

 空気はかなり重い。

 選ばれるのは少人数で、一人かもしれないし、二人かもしれない。

 例年通りなら最大二名が選出される。

 そう、たった二人だけだ。

 この中にちょうど二人、実技試験で目立った魔法使いがいる。


「もう絶対あの二人だろ」

「そうね。もう帰ろうかしら」

「いやワンチャン……あるかもしれない」


 そのほとんどが淡い希望を抱く。

 心から申し訳ないと思う。

 でも、私にもやらなくちゃいけないことがあるから。

 それにもう一つ、気になることがある。

 私は待合室の隅で座って待機している彼に視線を向ける。

 ウルシスと名乗った彼は、明らかに他の志願者の中で群を抜いた実力を秘めている。

 最大選出人数的に大丈夫だと思うけど、あんな人材が紛れていたのは予想外だった。


 ふと、視線が合ってしまう。

 彼はニコリと微笑んで立ち上がり、こちらへ歩み寄る。


「俺に何か用?」

「別に何も」

「嘘だ。さっきから俺のことを見ていたじゃないか。もしかして、俺に惚れちゃった?」

「冗談なら聞く気はないわよ」


 軽薄そうなしゃべり方だ。

 見ていたのは本当として、まさか話しかけてくるとは思わなかった。


「あれ? 怒らせちゃったかな? これから長い付き合いになりそうだし、仲良くしたいと思ったんだけど」

「長い付き合い? そんなのどうしてわかるのかしら?」

「わかるよ。君だってそうだろう?」

「……」


 彼はさわやかな笑みを浮かべている。

 試験に合格する二人は、自分と私だと確信している表情だ。

 確かにそうだと、私自身も思っているから、なんだか心を見透かされたみたいでムカつく。


「すごい自信ね」

「君だってすごかったよ」

「お世辞ね。さっきの魔法、どうして直接攻撃系の魔法を選ばなかったの?」

「ん? ああ、それは君が先にすごいのを披露しちゃってたからね。二番煎じになるより、別の方向性で魅せたほうがウケると思ったんだ」

「へぇ……」

 

 思ったよりもまともな返答が聞こえて驚いた。

 テキトーに選んだわけじゃなくて、彼なりに試験で魅せるための手段だったのか。

 ただ魔法が得意なわけじゃないらしい。

 だから余計に……危険だ。

 この男には、私の偽装が見破られる可能性がある。

 

「ねぇ君、えーっとイスカちゃんだっけ?」

「チャン付けはやめて。気持ち悪い」

「ひどいな! じゃあイスカ、君はどうしてこの試験を受けに来たんだ?」

「そんなのみんな同じ理由でしょ? 宮廷魔法使いの称号は、この国の魔法使いにとって最も栄誉のあるものなんだから」


 とか口で言いながら、そんな名誉にこれっぽっちも興味はない。

 私が見たいのは、この国の堕落と、私を陥れてきた者たちの破滅だけだ。

 この国での名誉なんて微塵もほしくない。


「へぇ~ そうなの? そんな風には見えなかったけど」

「――どう見えているのかしら?」

「そうだね。少なくとも君は噓つきだ」

「……」


 やはりこの男、見えているの?

 まだ確証はない。

 私は探る目的で質問を返す。


「あなたはどうなの?」

「俺かい? 君には俺が、どう見えているのかな?」

「……胡散臭い男」

「ははっ! ストレートに言うなぁ!」


 彼は陽気に笑う。

 正直、何を考えているのかわからない。

 重要なのは、私にとって障害となるのか否か……。

 できれば私だけ合格して、彼は落ちてほしいのだけど……。


 時間が経過し、役人が待合室にやってくる。

 私たちが注目する中で、合格者の発表が始まる。


「お待たせしました。本試験の合格者を発表いたします」


 私は席から立ち上がる。

 役人の視線が、先に私と合ったから。


「合格者は二名! イスカさん」

「はい」


 順調に、私は合格した。

 そして二名ということは、残念ながら聞くまでもなく一人しかいない。


「ウルシスさん」

「お、ありがとうございます」


 ちょうど並び立っていた私たちが合格者として名を呼ばれた。

 周囲からため息と一緒に、やっぱりかと声が聞こえる。

 皆の予想通りだった。

 私の淡い希望は通らなかったらしい。


「本日この瞬間を以て、お二人は宮廷魔法使いとなります。正式な勤務日はお二人のご都合に合わせますが、いかがでしょう?」

「私は明日からで構いません」

「あ、じゃあ俺もそうしてください」

「かしこまりました。では明日、荷物をまとめてまたここに来てください。おめでとうございます」


 役人の拍手に合わせて、落ちた人たちも拍手する。

 悔しい思いもあっただろう。

 それでも合格を讃えてくれるのは、私たちの実力を彼らも理解したからだ。

 これで計画のスタートラインには立った。

 のだけど……。


「明日から一緒に頑張ろうね? イスカ」

「……そうね」


 この測り難い男、どうしたものか。

 最初から余計な不安要素が増えてしまって、心の中で溜息をこぼす。

 せめて宮廷入りしてからは関わらないように心がけよう。

 ただなんとなく、この願いも叶わない気がした。

 怪しい男で、信用なんかできない。

 それなのになぜか、私はシンパシーを感じてしまっていたから。

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