15.依存し、利用される
「殿下……私……私……」
「ああ、わかっている。あまり顔を出せずにすまなかったね」
涙を流すシスティーナを、王子は優しく抱き寄せる。
システィーナは忘れているが、すぐ横には監視の騎士もいて、この光景を見られている。
ルガルド王子が騎士に視線を向ける。
「すまないがしばらく席を外してもらえるかな?」
「私は監視のためにここにいます」
「わかっている。だが、僕が一緒にいるときは心配ない。僕が目を光らせておくから。それとも君は、僕の目が信用ならないのかな?」
「……かしこまりました。ですがなるべくお早くお願いいたします」
「うん、そうするよ」
騎士が部屋から出て行く。
こうして長らく続いていた監視の目が、一時的に解かれる。
王子は泣いている彼女の肩に触れ、優しく引き離す。
「もう大丈夫、これで二人きりだ」
「ありがとう……ございます」
「涙を拭いなさい。せっかくの可愛い顔が崩れてしまうよ?」
「はい」
押し殺していた涙を全てさらけ出し、優しい王子の言葉で彼女の心は持ち直す。
涙を袖で拭い、婚約者の顔を見る。
「殿下……ずっとお会いしたかったです」
「僕もだよ。大変だったみたいだね。あまり力になれなくてすまなかった」
「いえ、私が失敗してしまったから、きっと殿下にもご迷惑を……」
「迷惑だなんて思っていないよ。むしろよくやってくれている。いきなり大仕事を任されたんだ。失敗しても仕方がない」
優しい言葉で慰められ、システィーナは徐々に笑顔を取り戻していく。
自分の味方はここにいるのだと。
一人ではないと実感して、縋るように袖を握る。
「寂しい思いをさせてしまったね。でも大丈夫だ。実は先日、父上と話をしてね? 臨時で新しく宮廷魔法使いを雇うことにしたんだ」
「今からですか? でも試験はまだ先のはず……」
「一般試験の日時を繰り上げることにしたんだ。即戦力を投入して、君にかかる負担を少しでも減らそうと思ってね」
「殿下……」
なんて優しいお方なのか。
失敗したことを攻めることはなく、負担を減らすために尽力してくれている。
そうだと知ったシスティーナは感激で再び涙を流す。
「泣かないでくれ。僕の大切な婚約者が困っているんだ。これくらいして当然だよ」
「……うぅ……」
「だからシスティーナ、君は変わらず可愛い君でいてくれ。君との触れ合いは僕の心を満たしてくれるんだ」
「はい。私も殿下と……」
二人は唇を交わす。
求め合うように、助け合うように。
彼らは愛し合っていた。
と、思っているのはシスティーナだけだ。
ルガルド王子の内心は、色欲と独占欲に満ちている。
まったく、こんなところで潰れられても困るんだよ。
せっかく邪魔なアリスティアを排除したのに、これじゃ何も変わらないじゃないか。
さっさと仕事は他の奴に押し付けて、彼女が僕に専念できるようにしないと。
顔もいい、身体もいい、性格も僕に依存し始めている。
最高の逸材を逃す理由はないな。
「これからも僕を頼ってくれ」
「はい。殿下」
システィーナの依存をほくそ笑む。
ルガルド王子にとって彼女は、自身に癒しを提供する存在。
愛玩動物に過ぎない。
それ以外の役割を、彼女に求めていない。
当然、この関係に愛はなかった。
◇◇◇
何もかも順調だ。
エネルギーも資源も、敵国から気づかれずに奪い返すことに成功している。
おそらく、当分はこのまま安定するだろう。
ただし、いつか必ず終わる。
「いくらお馬鹿さんでも、いつか気づかれるでしょうね」
「そうだろうな。そうなった場合……」
「戦争が起こるかもしれないわ」
レオル君の執務室で、私はキッパリとそう答えた。
もしも真実を知れば、彼らは必ずこの国を亡ぼすために動き出す。
そうなれば終わりだ。
戦力差は歴然。
「もちろん、それなりの準備もしているけど、やっぱり保険がほしいわね」
「保険……か。何かいい案でもあるのか?」
「一つある。レオル君が許可してくれたらだけど……私の予想が正しければ、そろそろだと思うのよ」
「何がだ?」
私の置き土産と罠のおかげで、今頃セイレスト王国は大変なことになっている。
システィーナ一人じゃ、私が抜けた穴を埋められないことにも気づくはずだ。
レオル君の疑問に答える。
「人員の補充が行われるわ。たぶん、一般人から」
「それがどうしたんだ?」
「ふふっ、ちょうどいいと思わない?」
「……! まさか、行く気か?」
私はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
遠く離れたこの地にいたら、セイレスト王国の現状は把握できない。
もはやアリスティアとしては戻れないけど、別人としてなら?
即戦力となる人材を探しているところに、適切な人材が現れたら?
彼らは迷わず引き入れる。
たとえそれが、裏切り者のスパイだとしても。
「彼らは気づかない。私の魔法には」
「リスクっていうのは、そういうことか」
「ええ、私のリスクよ」
バレた時に私がどうなるのか。
想像するだけでぞっとする。
「……自信はあるんだな?」
「ええ、私ならできる。もちろん、この国での仕事も継続するわ」
「それを実現する方法がある……か。君がそこまで言うなら止めないよ」
「ありがとう。レオル君ならそう言ってくれると思ったわ」
彼なら私の言葉を信じてくれる。
期待してくれる。
そうわかっていたから提案した。
「ただし、絶対にしくじるな。まずいと思ったら逃げても構わない。君自身の安全を優先してくれ」
「ええ」
そして何より、私の身を案じてくれる。
この言葉も、表情も、私を心配してくれているのが伝わった。
だから頑張れる。
どれだけ非道に手を染めようとも、彼の理想を体現するために。
その先にこそ、私が目指す安息は待っている。
さぁ、スパイ活動を再開しましょう。
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