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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
前編

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11/45

11.ドレスは相応しい場所で

 レイニグラン王国が抱える最大の問題、魔力エネルギー供給問題は一先ず解消された。

 一時的でしかないけれど、貴重な資源を消費せずに生活水準を保てる。

 レオル君もすごく喜んでくれていた。

 ついさっき、大量の魔力がこちらに送信されたところを見ると、システィーナが資料を見つけて修繕を試みたみたいだ。

 思惑通り、私が残した資料に頼ろうとするなんて滑稽ね。

 お陰で私たちは労せず、蓄えられるだけの魔力を手に入れることができた。


「今頃、あちらの王都はパニック状態ね」

「まーた悪い顔をしてるぞ」

「悪いことを企んでいるからいいの。それよりどこへ向かっているの?」


 一仕事終えた私は、レオル君に案内されて王城の廊下を歩いている。

 渡したい物があるらしい。


「そろそろ教えてくれないかしら?」

「もう到着する。別に驚かせるようなものじゃないぞ」

「ここって……」


 到着したのは衣装室だった。

 レオル君がおもむろに扉を開けると、そこにはずらっと衣装が並んでいる。

 ドレス、寝間着、普段着用のラフな服。

 どれも女性ものだった。


「レオル君……」

「お? 少しは驚いたか?」

「ええ、驚いたわ。まさか……レオル君に女性ものを着る趣味があったなんて」

「俺のじゃなくて君のだよ!」


 レオル君が顔を赤くして大声を出し否定した。

 これは普通に驚いた。

 私は目を丸くしてレオル君に尋ねる。


「私の?」

「そうだよ。君がこっちで生活するために必要なものだ」

「わざわざこんなに……ドレスまで」

「いると思ってね。君はこれから大きなことをする。それを王子として、国の代表として称える場には、華やかなドレスが一番だ」


 そう言いながらさわやかな笑顔を見せるレオル君。

 一着や二着で収まらない。

 ドレスだけでも十着は用意されている。

 私は思わず笑ってしまった。


「ふふっ、気が早いわね」

「そうでもないさ。案外すぐに、そういう日はやってくると思うぞ」

「だとしても、こんなに用意しなくてもよかったのに」

「生憎、俺は君の好みを知らないからな。テキトーに用意して、これじゃないって思われたくなかった。聞くのも何となく格好悪い気がしたし」

「変なところで強情なのね。でも……」


 並んでいる衣装は全て私のために用意されたもの。

 こんなにたくさんの服……ミレーヌ家で暮らしている時でも与えられなかった。

 パーティーに参加するドレスも、一着を着回していた。

 貴族の地位なんて名ばかりで、私の扱いは使用人以下で……。

 そんな私に、好みがわからないからなんていう理由で、これだけの服を用意してしまうなんて……。

 馬鹿みたいだけど、そんな皮肉よりも口から出たのは――


「ありがとう。レオル君」


 純粋な感謝の言葉だった。

 私は嬉しかった。

 どんな理由でも、私のために服を用意してくれていたことが。

 服に限った話じゃない。

 これも、暮らすための部屋の用意も、王城で働く人たちが混乱しないための根回しも。

 全ては私の生活を守るために、レオル君が動いてくれていた。

 自分だってやることは山積みで、毎日忙しくしているのに。


 心から嬉しかった。


「せっかくだ。着替えてみたらどうだ?」

「え、ここで?」

「さすがに俺は外に出ているけどな。君のために用意したんだ。君が好きに使ってくれていい」

「……そうね」


 レオル君がわざわざ用意してくれたものだ。

 私も、どんな服があるのかもう少し見たいし、着てみたいと思う。

 

「じゃあ俺は外に出てる。好きな服を着てくれ。時間はまだまだあるからな」

「ええ、そうする」


 ガチャリと扉を開けて、レオル君が部屋の外に出て行く。

 一人だけになった私は、たくさんの服を右から左へ順番に見ていく。

 

「ドレス、派手な色ね」


 こんなに綺麗なドレスが私に似合うのだろうか。

 レオル君は優しいから、何を着ても似合っていると言ってくれそうだけど。

 ちょっぴり自信がない。

 ドレス以外にもある。

 

「あ、これ……」


 ちょうどいい物を見つけた。

 時間はあると言ってくれたけど、レオル君を待たせるのは申し訳ない。

 それにこの服なら、今の私にはピッタリだ。

 着替えるのに時間もかからない。

 私はとある一着を選び、その場で着替え始める。


 数分後――


 私は扉を開けて、外で待っているレオル君に姿を見せる。


「お待たせしてごめんなさい」

「――その服を選んだのか」

「ええ。今の私にはピッタリでしょう?」

「確かにな」


 レオル君は微笑む。

 私が着ているのは、この国の宮廷魔法使いが着ている服だ。

 ずっとセイレスト王国の宮廷でもらった服を着ていたから、この機会に着替えさせてもらった。

 もうあの場所へは戻らない。

 私はこの国で、レイニグラン王国の宮廷魔法使いになったのだから。


「てっきりドレスを着るかと期待したんだがな」

「ドレスなんて一人で着られないわ。それに、そういう場にこそ相応しい」

「それもそうか」

「ガッカリしてるの?」


 私にはそう見えた。

 まさか、私のドレス姿を見たいと思っていたの?


「ちょっとな。見てみたかった」

「……そう」


 私は小さく笑みを浮かべる。

 そんな期待のされ方も、生まれて初めてだった。

 私の姿に、興味を持ってくれる人がいるのか。


「じゃあ、そういう機会があったら見せてあげるわ」

「ああ、期待してるよ。きっとそう遠くない。君ならあっという間に、この国を変えられそうだ」

「期待しすぎても困るわよ」


 私は笑いながら、心は奮い立っていた。

 多くの期待が私に向けられている。

 光栄なことだ。

 彼の期待に、夢に、一歩でも多く、一秒でも早くたどり着けるように。

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