10.自業自得
アリスティアが追放された宮廷、その一室では悲鳴があがっていた。
「……終わらない」
山積みになった書類を睨むのは、彼女の後任となったシスティーナ。
アリスティアが残していった通常業務に押しつぶされ、毎日のように遅くまで働いていた。
あまりの忙しさに、婚約者と会う時間すらない。
それと合わせる様に、ルガルド王子も忙しくなってしまった。
結果、彼女は一人で仕事に励む。
弱音を吐きたくとも許されない。
なぜなら彼女は、多く期待を背負っている。
トントントン。
ノックの音に続いて、女性の声が響く。
「システィーナさん、入りますよ」
「はい」
声で誰かはすぐにわかる。
宮廷魔法使いを束ねる室長だった。
彼女は身分や世情に流されず、対等に接する。
仕事の分配も、各人の裁量に合わせた適切な量を任せていた。
が、システィーナの場合は少々変わっている。
なぜなら彼女は、アリスティアの後任として特別に選ばれた。
それ故に、与えられる仕事量も、期待も、全てアリスティアと同じ基準である。
「どうされましたか? 見ての通り私は仕事中ですが」
「そんなことはわかっています。システィーナさん、発魔所の設備の調子が悪いようです。どうにも生成される魔力量が規定より三割ほど減少しているとか」
「は、はぁ……それがどうしたのですか?」
「わかりませんか? あなたに修繕の依頼を頼んでいるのです」
室長はキッパリと冷たく命令する。
当然、システィーナは驚き否定する。
「待ってください! どうして私なんですか? 私は今――」
「発魔所の管理もアリスティアさんが担当していました。よって後任であるあなたの仕事です。大至急、発魔所に向かってください。わかりましたか?」
「――っ、はい」
いかにシスティーナでも、宮廷での立場は室長のほうが上。
その命令には従うしかない。
頼りの王子様は、今どこにいるのかもわからない。
「なんで……」
彼女は唇を噛み締め、怒りを原動力に動き出す。
発魔所にたどり着くと、彼女は早々に刻まれた魔法式を確認した。
動作も正常で、特に問題は見当たらない。
「修繕箇所なんてどこにもないじゃない……」
ただ、明らかに魔力の供給量は規定を下回っていた。
これで不具合を見つけられない……なんてマヌケを晒せば、周囲の期待を裏切ることになる。
それだけはあってはならないと、彼女は必死に探した。
一度研究室に戻り、アリスティアが残した資料も探し回る。
そして見つけた。
「あった!」
発魔所に関する資料。
あそこで使われる魔法式を作ったのはアリスティアだ。
システィーナも当然知っている。
研究資料を見れば、不具合を治す方法だって書いてある。
「これね……ふふっ、マヌケだったわね。こんなものを残しておくなんて」
お陰で楽に功績が掴める。
そう思って、資料に書いてある手順通り、刻まれた魔法式に別の式を追加する。
資料からすると不具合の箇所を見つけ、自動的に修正する式らしい。
が、これが罠だった。
突然発魔所がガシュンと音を立て、全ての機能が一時停止する。
「な、なんなの? どうして!?」
焦るシスティーナ。
マヌケは彼女のほうだった。
アリスティアはわざと、この資料を研究室に残していた。
偽りの情報を記載して、システィーナがひっかかるように。
彼女が知らないうちに刻み込んだのは、生成した魔力を一気に全て、遠く離れたレイニグラン王国に移動させるもの。
魔法式は発動後に消えて、数分後に設備は再起動する。
壊れてしまっては魔力を横取りできないから、アリスティアも破壊までは考えていない。
しかし、一時的とはいえ国中に魔力を供給する機関が停止した。
「今のはなんだ?」
「王城の照明が消えたぞ? 発魔所はどうなっている?」
「――システィーナさん! これはどういうこと!」
案の定、パニック状態。
この責任を取らされるのはもちろん、修理を担当したシスティーナだ。
怒りに満ちた表情で室長が走ってくる。
「わ、私はただ資料通りにしただけで」
「言い訳は後で聞くわ。一緒に来なさい。陛下に報告しに行くわよ」
「……は、はい」
何度でも言おう。
これは序章である。
彼女の絶望は、不幸は、始まったばかりなのだ。
もっとも同情の必要はない。
自業自得、なのだから。
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