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1.虐げられた姉

連載版スタートです!


「アリスティア、君を僕の婚約者候補から除名することが決まったよ」

「……え?」


 それは突然のことだった。

 いつものように早起きして、誰よりも早く宮廷に入り、溜まった仕事に取り掛かろうと手を伸ばした。

 その手を止める様に、扉をノックする音が聞こえて振り返り、声をかける前に彼は姿を見せた。


 セイレスト王国第一王子、ルガルド・セイレーン様。

 次期国王になることがほぼ決定している次代の権力者だ。

 この国では才ある者を多く残すために、貴族だけが複数人の妻を持つことが許されている。

 王子である彼にも、複数人の婚約者候補がいた。

 そのうちの一人が私、ミレーヌ伯爵家の長女として生まれたアリスティア・ミレーヌだった。

 だけど今、私はその地位を剥奪されようとしている。

 困惑する私に、ルガルド王子は言う。


「新しい婚約者候補はすでにいる。父上への報告も済ませておいた。もう君は、僕の婚約者ではなくなっている」

「お、お待ちください殿下! ど、どうしてそのようなことに……」

「理解ができないかな?」


 そう言って、殿下は私を馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 理解できない表情を見せる私に、彼はため息をこぼしながら首を振る。


「まったく、これだから君はダメなんだ」

「……」

「わからないのかい? 仮にも僕の婚約者を三年もしていたというのに、僕の考えがわからないのかな?」

「……申し訳ございません」


 私は謝る以外にできなかった。

 彼が何を考えているのかなんて、私にはわからない。

 だって、婚約者候補の一人になってから、私と殿下が交わした言葉の数は少なすぎる。

 他にもいる婚約者に比べて、私は常に後回しにされていた。

 放置されていたと言ってもいい。

 いいや、むしろ私よりも彼女のほうが、ずっと殿下と交流が深いかもしれない。


「わからないようだからハッキリ言ってあげようか。仮にも元婚約者だから、あまり傷つけたくはなかったのだけどね」

「……」


 ニヤニヤする殿下を見て、私は感じ取る。

 本当は言いたくて仕方がないのだろう。

 彼は表情を崩さぬまま口にする。


「たくさんあるんだ。元より、君との婚約は僕が望んだことじゃない。君の父親、ミレーヌ伯爵家当主がどうしてもというから、仕方がなくしてあげたんだよ」


 そんなことは知っている。

 私が殿下の婚約者に選ばれた理由は、お父様がそうなるように仕向けたからだ。

 当然、私も望んでいない。

 お父様にとって私は娘ではなく、自身の地位を確立するために都合がいい道具でしかない。

 私はお父様に……いいや、ミレーヌ家の人間に嫌われている。

 理由はハッキリとわかる。

 私を生んでくれた母親が……他国のスパイだったからだ。


 この国では貴族のみ、一夫多妻が認められている。

 私の父も、三人の女性を妻にしていた。

 そのうちの一人、平民で街の踊り子だった女性にお父様は惚れこみ、自らの妻とした。

 お父様と平民の踊り子の間に生まれた子供……それが私だ。

 貴族の血に、平民の血が混ざることは、貴族たちの中でもあまり快く思われない。

 それを理解した上で、お父様はお母様を娶った。

 きっと、それだけ惚れこんでいたのだろうと思う。

 だけど、全ては計画されたものだった。

 お母様は、当時敵対していた国から送られてきたスパイで、王国の内情を調べ上げる任務を担っていたらしい。

 それがお父様に露見し、激怒したお父様によって追放された。

 真実は定かではないけど、殺されてしまったのだと、ミレーヌ家の中では噂されている。

 

 それが発覚して以来、お父様は私のことを目の敵にするようになった。

 信じていた人に裏切られた直後だったから、少し同情する。

 けれど、子供の私には関係ない。

 お母様が何者でも、私が何かをしたわけじゃない。

 体罰を受けたり、食事を残飯にされたり、厳しさを通り越した教育を受けさせられた。

 それでも私は、お父様のことを信じていた。

 少なくともお母様がいなくなる直前まで、お父様は私に優しかった。

 いつかきっと、優しいお父様に戻ってくれる。

 私がいい子にしていれば、もっとお父様の役に立てるようになれば……と。


「正直最初は乗り気じゃなかったのだけどね。でも君は、最年少で宮廷魔法使いになるという一つの偉業を成し遂げた。その時に少しだけ興味が湧いたんだ」


 そう、今の私は宮廷魔法使いだ。

 五年程前、私がまだ十四歳だった頃に試験を受けて、最年少で合格した。

 当時はそれなりに話題になった。

 ミレーヌ家から若き天才魔法使いが誕生した、と。

 私やミレーヌ家に対する世間の評価が上がった。

 だけど、そんなことは私にはどうでもいいことだった。

 

 私が望んだのは、お父様に認めてもらうことだけだったから。

 優しいお父様に戻ってほしい。

 その一心で、唯一自信があった魔法の勉強を独学でして、なんとか宮廷入りを果たした。

 宮廷は、この国で最も優れた魔法使いたちが集まる場所だと言われている。

 そんな場所の一員になれれば、お父様もきっと喜んでくれる。

 ちょうどこの頃、以前から話にあがっていた殿下との婚約の件が進んだ。


 お父様は私にこう言った。


 ふっ、こんな下らない女との娘でも、多少は役に立つんだな。


 目も合わせず、馬鹿にするように。

 私は思った。

 まだ足りないんだ、と。

 お父様に認めてもらうには、宮廷入りだけでは不十分だと悟った。

 だから頑張った。

 毎日毎日、定められた仕事量の倍はこなし、夜遅くまで研究に励んで、王国に役立つ魔導具や新しい魔法を開発した。

 国中に認められる功績を残せば、当主であるお父様も鼻が高い。

 そうすれば今度こそ認めてくれると信じて……。

 

「でも興味はすぐに消えたよ。だって君といてもまったく楽しくない。魅力のカケラもないんだよ。女性としての魅力がね」

【作者からのお願い】


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タイトルは――


『«引きこもり錬金術師は放っておいてほしい» 妹に婚約者を奪われ研究に専念できると思ったのに、今度はイケメン王子様に見つかって逃げ出せません……』


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『«引きこもり錬金術師は放っておいてほしい» 妹に婚約者を奪われ研究に専念できると思ったのに、今度はイケメン王子様に見つかって逃げ出せません……』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局、婚約者と婚約者候補どっちだったんだろう?
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