霞ヶ関のお役人、身の振り方を考える。
日記はここで途切れていた。
9月には、エヴァは実家に戻されていたらしい。そこで再婚の申し込みを待ったが、前夫が新婚4ヶ月で自殺した「いわく付き」のエヴァには誰からも結婚の申し込みがなく、また、家は破産し持参金もないため、兄のジョンはエヴァを娼館送りにすることを決めた、ということらしい。
「参ったなあ」
つぶやいて、私は天を仰いだ。娼館なんか絶対に碌な場所ではないため、なんとしても娼館送りは避けたい。それに、私の知る「暁のアテーネー」では、エヴァは王の公娼であり、王の側近が娼館から連れてきた女という設定であった。娼館送りになるということは、「暁のアテーネー」のメインストーリーの通りに、エヴァは公娼になり権力に溺れ、王子を追放し、最後にはヒロインの力を借りた王子に逆襲されて殺されてしまう。娼館送りになるということはつまり、デッドエンドの第一手である。
しかしながら、この世界の女が結婚以外で自活する道はあるのだろうか。セオリーとしては実家に寄生だが、寄生先のブノワ家は破産している。あとは、オールドミスはガヴァネスとして裕福な家で働いて……。
「そうだ、ガヴァネスになればいいんだ!」
私は椅子から立ち上がり、机を叩いた。家庭教師なら大学時代ずっとアルバイトでやっていたし、そもそも私は勉強が得意だ(だから霞ヶ関で官僚をやっている)。それに、エヴァもこの時代にしてはたっぷり教育を受けているらしい。これなら自活できるのでは、と私は急に視界が晴れた気になった。この、亡くなったウォルターの従兄弟のロバート氏は王都にいて、どうやら力になってくれそうなので、この人に相談して家庭教師先を探そう。そう思うと急に気が楽になったため、私は髪の毛を解いて櫛を軽く当てると、ベッドに潜り込んだ。