1・転生後の世界。
あの会合から転生の儀を終えてざっと二千年後の世界。
元死霊使いはクシャナス王国から遠く離れた人里で暮らしていた。
死霊使い改めこの転生先では新たな姓クロム・ジルキアと名乗っている。
両親は俗にいう没落貴族だ。父は今冒険者として生計を立てている。
俺は現在十二歳になる、この十二年の間色々と新たな世界について調べていた。転生後の世界では争いは終わっていなかった。だが、一つ変わった事と言えば今まで魔族として仕えていた魔獣たちは各々、ダンジョンという場所を創り出し、そこに居住まっている。
そして、この世界にはスキルと魔法は相変わらず存在し、一つ大きな違いがあるのだとすれば、それはこの世界での十三歳、つまり成人の日に送られる祝辞があるそうだ。なんでも、オリジンスキルといってその祝辞次第で大きく人生が変わる人もいるそうだ。俺はもうすぐ、十三になる。意外とこのオリジンスキルの授与を楽しみにしていることは秘密だ。
この十二年間かなり新鮮な体験ができた。それは、まずは赤子の大変さだ。声はあーだのうーだのしか出せず、ましてや体を動かすことすらままならない。
一歳くらいになってようやく自身の体に慣れてきた。移動することはできたが、まあかなり疲れる。体を動かさない代わりに俺は魔力の上限を上げるために精錬していた。平凡な暮らしがしたいとはいえ、別に弱くなくても、護身の為に力はつけていて損はないはずだ。
五歳くらいになってからか、ようやく俺の魔力量が達したのか、影の戦士たちともリンクが戻った。
「王よ、新たな生の誕生、心よりお祝い申し上げます」
「ウラノスか、久しいな。他の者も変わりはないか?」
「はい、皆、王のご帰還に歓喜しております」
そこからの時間は魔力量を増やしつつ、父レオン・ジルキアと共に剣術の稽古をつけてもらい、母、リーゼ・ジルキアに魔法やスキルについて稽古をつけてもらっていた。どちらも本来なら俺に必要なことでは無いのだが、いきなり何でもできてしまうというのは些か都合が悪い。その努力あってか、両親の間では俺は天才、神童などと呼ばれていた。
「あなた、クロムちゃんったら全属性の魔法適性があるのよ! これは、魔道学園に通わせた方が良いわ」
「何を言ってるんだ! クロムは剣の才も最早俺と肩を並べる実力だぞ! クロムは絶対に聖剣学園に通うべきだ」
両親は俺の実力を見て進路の話を決めていた。魔法に至っては隠す気は無かったが、剣術においては父親など俺にとっては正直相手にならない。父親の実力は冒険者ランクで表すと、Aランクに位置するそうだ。多分俺なら本気を出さずにAランクに上がることは容易いだろう。
二人が俺の進路に対する言い争いに嫌気がさした俺は二人に俺自身の希望を告げた。
「父さん、母さん、俺はクシャナス王国最高峰だと言われる魔剣学園に行きたい。俺は魔道も剣術も両方極めたい」
俺の発言に二人して顔を合わせフリーズしていた。
「「その手があったか!」」
二人の声が重なった。二人共まるで盲点だったと言わんばかりの驚きを見せていた。
「だから、来年入試試験を受けたい。どうかな?」
「いや、確かにあの学園は王族や一流貴族も揃って入ってくるし、何よりいつの時代も英雄に名を馳せる者は皆魔剣学園の卒業生だ。簡単ではないかもしれないが、お前なら必ず合格できると信じている」
「そうね、クロムちゃんなら楽勝よ。それに、いよいよ明日ね。クロムちゃんのオリジンスキルの授与。一体どんなスキルが送られるのかしらね?」
そう、明日が俺の十三の誕生日。オリジンスキルは日付が回るのと同時に贈られる。まるで、聖夜の日に贈られるプレゼントのようだ。
先程は楽しみだと言ってはいたが、正直興味があるのは授与された後のことだ。一体どういった過程で授与されるのかそれだけが俺の興味を惹いた。なんせ、転生前のスキルは問題なく俺に引き継がれていたからだ。正直このスキルがあれば今更覚えるスキルは無いと思っている。
「うん、俺も楽しみだよ。父さんのオリジンスキルは確か星四の鋼鉄武装だったよね? 俺もそういうかっこいいのが良いな」
俺の世辞に父さんは鼻をかきながら照れ笑いを浮かべていた。そもそもオリジンスキルにはランクがあるらしい。
授与された時に右手の甲に星の紋章が浮かび上がり、その星の数が多ければ多いほどランクは高いらしい。星の数は最大で五つあるそうで、更に、その紋章は他人に見せてはいけないと言われているらしい。紋章の数、つまりはランクが露見されると戦いにおいてかなり不利になるそうだ。確かにオリジンスキルが他のスキルに比べて強力なのは明白なのだが、ランクが低いとそれはまた別の話になる。
通りで、町に居る人、冒険者の人も含め皆必ず右手に手袋をしたり包帯で巻き付けたりしていたのか。俺なら、幻惑魔法の類で紋章の数を偽り相手を油断させて返り討ちにするのに、まさかこんな方法もこの時代の者たちは考え付かないのか?
家族との歓談を終え、寝室にて眠りに就いた。
※
翌日になり、暖かな日差しを浴びて起床した俺はオリジンスキルの授与が施されているはずの右手に視線を移した。
視線の先には本来なら星の形をした紋章が浮かび上がっているはずなのに、俺の右手には……、紋章らしきものは見当たらなかった。ふむ、これはどういうことだ? 何故授与されていないんだ、これは例外的にあり得るのか? まさか、俺がこの二千年後の世界の住人ではないからなのか? 考えれば考えるほどありとあらゆる仮説が成り立ってしまう。まあ、今あるスキルと魔法だけで充分なのだが、少し、いやかなり期待していたのは秘密にしておこう。
そして、俺が起きたことに気付いた両親は、二人揃って俺の部屋の扉を開いた。
「クロム! それで、オリジンスキルの授与は?」
その言葉を受け、俺は若干の気まずさを覚えながら二人の前に右手をかざした。
「……え? クロムちゃん? 紋章が見当たらないんだけど……」
母さんの問いに答えるべく、俺は今朝起きて今に至るまでを説明した。
「だ、大丈夫よ! ほら、クロムちゃん天才だし、きっとオリジンスキルをクロムちゃんに授与したら世界の均衡が崩れちゃうとかそんな感じよ!」
母さんは俺に気を遣っているのか色々とフォローをしてくれていた。それでも悔しかったのか床の上を飛び跳ねたりゴロゴロしたりしていた。おかげで辺りには日の光で照らされた埃が星々の輝きのように舞い散っていた。流石に埃を撒き散らされては少々気分が悪い。俺は右手を前にかざし、一つの魔方陣を描き出した。清掃その言葉を言い終えると辺りの埃はおろか、俺の部屋全体を綺麗に掃除尽くした。
「む、無詠唱だと⁉」
俺の無詠唱魔法に父さんは驚きを隠せてはいなかった。そんなに珍しいものか? 元々俺自身無詠唱魔法はできた。いや、昔の時代なら普通にみんな使っていたと思うんだがな。もしかして、無詠唱魔法もこの時代にはないのかもしれない。
「そ、そんなことより、クロムちゃんの十三歳のお誕生日会をしなくちゃ!」
「あぁ! そうだな。クロム、今日はお前に最高のプレゼントを用意している。楽しみにしておけ!」
二人揃って大はしゃぎだった。また埃が立つからもう少し大人しく頼みたいとこだが、存外家族というものもなかなかどうしていいものだな。俺の転生前は家族など居なかった。物心着いた頃から俺は一人だった。俺の固有スキル影の王はもしかしたら寂しさを紛らわすために身に着いた能力かもしれない。
そして、両親が俺のお祝いの為にご馳走を用意してくれていた。それをいつもながら歓談して食事を終えると、父さんが俺に小包を渡してきた。
「開けてみろ。これは、父さんが倒したドラゴンの素材を使って作ってもらった業物だ」
父さんに渡された小包を開けると、そこには、綺麗な緑色の鱗が装飾され、一目見ただけで物凄い切れ味を出しているのがわかる。確かに業物だ。
「すごい、かなりの業物だね。父さんありがとう! 一生大事にする」
本来俺の戦闘スタイルは武器を持たない。なぜならその場その場で適正となる武具を創造することができるからだ。この創造も俺の固有スキル。まあ簡単に言うとこれも影の王もオリジンスキルみたいなものなのだが、流石にこんなプレゼントをされては使わないわけがない。それに、案外この剣を気に入っている自分が居る。
「クロムちゃん、これは私から」
母さんが渡してきたものもこれまた小包に入っている物だった。中を開けてみると、そこにはかつて、俺が身に付けていた服にそっくりな黒のパンツに、黒のシャツ、そして、黒のローブが入っていた。
「ねぇ、ねぇ、着てみてくれる?」
母さんのお願いを聞き入れ、その黒の服一式に着替えて二人の前に現れた。
「キャーっ! クロムちゃんすっごく似合ってるわよ! もぅ、ほんとにかっこいいわ」
俺のその姿に父さんはおぉ、などと感心している様子だったが、母さんは今まさに俺に抱き着いて興奮していた。
「母さんありがとう。これ凄くかっこいいよ!」
「これを着て入学試験も頑張ってきてね!」
こうして、暖かな家族からプレゼントをもらい、来たる入学試験に向けて修練を行っていた。
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