トークテーマは「ホラーな体験談」です
「こんばんは、ネリです。はい、今週もはじまりましたね、ラジオ」
「こんばんは、ノリアサでーす、スタジオの中は涼しいんですけど、リスナーのみなさん、大丈夫っスかね?」
「今日も日中すごかったですね、あっつくて、溶けるかと」
「言うて、溶けてる人見たことないけど」
「ですね、あ、猫は溶けてましたよ今日も」
「あー、ネリんちの猫? あいつらはほら、液体だから」
「そうでした。ということで、人間のみなさんは、涼しくして聴いてくださいねー」
「猫が固形になるぐらいの温度で」
「それだいぶ、寒いですけど。あ、はい、じゃあさっそくコーナー?」
「いこいこ」
「リスナーさんから質問をいただいてますんで、ええとじゃあ、読みますね。ラジオネーム、『オクラのねばねばは体にいい』さんから、ありがとうございます」
「いい名前してんなあ、ありがとうございまーす」
「夏といえばホラーですが」
「ああー、怖い話?」
「ホラーですが、おふたりは、何かホラーな体験談はありますか? ということですが、どうですか、ノリアサさん?」
「ホラーねえ、あー、おばけ系?」
「ノリアサさん見える人ですか?」
「いやー、俺あんま、そういうのは」
「ノリアサさん鈍そうですよね、隣にいても気づかないみたいな」
「え、いんの? やめてぇ?」
「かわいい声出さないでくださいよ」
「え、え、ネリは見えたりすんの? まさか」
「あー、まあ」
「ちょっとほんとやめて、なにもないとこ見んのやめて、っていうかそれラジオじゃ伝わんない動き!」
「はははー、なにもいませんって、いまのところは」
「ちょ、ほんとやめて、えー、じゃあ、ホラーな体験もいろいろあったりすんの?」
「いろいろというか……、聞きたいですか?」
「あー、聞きたくないけど、あー、リスナーさんからの質問なんで、どうぞ」
「では僕から、ホラーな話。ええと、先日、僕、ラブホテル泊まったんですけど」
「待って! それここで話して大丈夫なやつ?」
「大丈夫です、行ったの友達となんで」
「ええ、友達とラブホ行った話って、よけいになんか、ええ、大丈夫?」
「大丈夫です、話すの、友達が寝た後のことです」
「じゃあ、大丈夫……か?」
「大丈夫ですって。で、もう寝よっかーって、ベッドに転がって、明かりも消して。一応、テレビはつけてたんですけど、タイマーで切れるようにしてて。友達はすぐ寝て、それで僕もいつの間にか寝てたんですけど」
「そんで?」
「夜中、目が覚めたんですよね。そのときには、もう、テレビも消えて、部屋、ほぼ真っ暗で」
「あー、もう嫌なんだけど、俺」
「まあ、なにも見えなかったんですけど」
「そなの?」
「そうです。でも、音が」
「音」
「そう、音が……、かちゃんって。陶器のコーヒーカップの中で、金属のスプーンがぶつかった、みたいな音がして」
「え」
「そういやふたりでコーヒー飲んだなー、あのコーヒーカップ、テーブルんとこ、置きっぱなしだしって、思って。僕、あんまり深く考えずに、そのまま、また目閉じて、寝たんですけど」
「寝たんだ、すげえな」
「……ね。でも、よく考えたら、僕はベッドにいて。友達も隣で寝てて。ほか、部屋に誰もいないのに。音がすること自体がなんかちょっと、変? なのかな、と」
「変だろ! 怖いよそれ、やっぱなんかいたんだって、それ、怖いってー」
「でもまあ、それだけで。大した話じゃなくて。それで終わりなんですけど。翌朝、確認したけど、部屋、変なとこなかったし。コーヒーカップの位置とかは、まあ、寝る前に細かく覚えてないから、多少動いててもわからないけど、そんな感じで」
「んん、害のない何かが、部屋、通ってった、みたいな?」
「そうかも? そのホテル、湖の近くだったんで、そういう場所って集まりやすいとか、通り道になるとか、言いますよね」
「え」
「なに?」
「え、え、え、待って。湖? え、待って、そのホテルって、あれ? え」
「ん?」
「ん? じゃねえよ、お前それ、一緒に行った友達って俺だろ。思い出した、夜中の移動になって、も、近くどっか泊まろーって、ラブホでよくね、って」
「あ、覚えてました? そうそう、あのときの話です」
「え、音がしたのって、マジな話?」
「そう」
「やだー、やめて。知りたくなかった。なんかいたのかよ、あの部屋さあ、やめて」
「まあ、終わった話だし、僕もノリアサさんも元気だし」
「元気だけどさあ」
「なんならもっかい、確かめに行っても? 行きます?」
「ぜーったい、行かね」
「あ、そういえばあのとき、寝る前にノリアサさんが」
「ちょ、待って。待って、ほんと待って。それはここで話せないやつ。な!」
「まあ、ホラーな話からは脱線するんで、じゃあ、僕の話はこれで終わりましょうか」
「ぜひ終わって」
「じゃ、次、ノリアサさん。ホラーな話、どうぞ」
「俺もすんの?」
「するでしょう。なんかないですか」
「あー、なんか。お前の話聞いて、自分が何話そうとしてたか、忘れたわ」
「思い出して。怖いやつ。なんか」
「なんか、なあ、あー。おばけの話じゃなくてもいい?」
「怖い話なら、いいですよ」
「んー、こどもんときの話、なんだけど」
「ラブホテル?」
「入っちゃだめな年齢な。んで、ラブホは関係ないんだけどな、まったくな。え、まだ引っ張る?」
「いえ、続き、どぞ」
「んとなー、俺がこどもんとき、たぶん親戚か、親の知り合いだったのか、な? 俺よりちょっと年上のこどもがいる家があって。で、いらなくなったものをおさがり、っつって。くれてたんだけど」
「あ、服とか? 本とか?」
「そそ。まあ、服とかはな、俺はべつにまあなんでもーって歳だったから。どうでもよかったんだけど。おもちゃとかもくれたんだよな」
「おとなの、ではないおもちゃ」
「当たり前だろ。こども向けの、おもちゃ。パズルとか、ボードゲームっての? ああいうのとか。あとちょっと前のヒーローもののロボットとか? そのぬり絵とかもあったかな。いろいろ。なんか珍しいからさ、うれしかったわけ」
「なるほど」
「で、さ。ときどき家に段ボール箱で持ってきてくれてて。俺は、そのくれてる人には会ったこともないんだけど。おもちゃ届いてるよー、なんて親が言った日にはテンション上がる感じで。やったー、って。親はさ、服とかは分別っつーの? これからすぐ着られそうとか、季節が違うから置いておこう、とか、見てたみたいなんだけど。おもちゃは箱ごと俺に丸投げで」
「なんか宝探しみたいな?」
「そそ、今回はどんなんが入ってんのかなーって、わくわくしながら開けて。で、これは好き、これは俺もいらねーな、とか。あさってたら、さあ」
「やばいもんがあった?」
「ん、まあ、やばい、っつーか」
「あ、ここで今話して大丈夫なフレーズですか? ピー音用意いります?」
「それは大丈夫、なんだけど。……今、思い出しても、ぞわっとするんだけど、な」
「え、なんですかそれ」
「んと、な。段ボール箱の中、ほかのおもちゃの間に、小さな箱が、入ってて。小さい、つっても、あー、箱のティッシュぐらいの、あんぐらいの大きさの」
「これぐらいの?」
「そんぐらいの。で、持ったら軽いし。なんだろーって、ふた、開けたら。中に入ってたのが、くるくる巻いた包帯だったんだよな、十個ぐらい? もっとあったかも」
「包帯?」
「そう。なんだこれ、って引っ張ったら、リボンじゃなくて包帯で。あー、それで、俺さあ、ハロウィンのときにさあ。トイレットペーパーでミイラのコスプレとかしてんの見たなーって、思い出して。本物の包帯があったら、もっとリアルなミイラ男できんじゃん! って、思ったんだよなー」
「へえ」
「で、巻いてみようって、それ。自分の体に」
「うん」
「本物の包帯なんかそんな、触ったことなかったし。家の救急箱の中とか入ってっけど、こどもは触っちゃだめだろ? でもこれは、おもちゃとしてもらったやつだから、俺が好きに遊んでいいやつだし。って、興奮してた、気がする」
「本物で遊べるの、けっこううれしいの、わかります」
「だろ? おもちゃにしていいけどおもちゃじゃないものって、なんかいいだろ。で、包帯な。巻いたんだよ。自分の足に、一本分。で、次、二本目行くだろ。体中巻くつもりだったし。で、一本目の終わりんとこがほどけないように、って二本目のロールを、ゆっくりこう、続きに巻いて、巻いて」
「ぐるぐると」
「そう、ぐるぐる。巻いて、たら」
「なんかあったんですね?」
「包帯って、白いよな?」
「白ですね。すぐに思いつくのは」
「でも、二本目の包帯。途中から、色がついてて」
「色? カラー包帯?」
「まんべんなく、じゃなくて。まだらに。でもけっこう、広範囲で。錆びた、茶色、みたいな」
「え」
「そんでちょっと、硬いんだよな、そこ、肌に触れたら。一本目とは肌触りが違ってて。俺、そのときさ、すぐにはそれが何か判断できなくて。なんだろー、色ついてんなーって。頭ではなんだろって思いながらも、手がさ、自動で動き続けるっつーか。巻くの、急には止められなくて。ぐるぐる」
「巻いちゃったんですか」
「そう。巻いて。……やっとわかるんだよな。それが、何の色か。錆びた色」
「包帯に付着する、錆びた色」
「そう。元は、これ、こんな色じゃなくて。もっと、鮮やかな」
「……赤」
「そう、赤。赤いもの。赤って。包帯につく赤いものって。あー! って」
「あー! って。それは、なりますね」
「だろ、血だー! って、気づいて」
「気づいちゃった」
「気づいて、も、それから、ぎゃあって、体中鳥肌だらけよ、も。わかったとたんに」
「血ですから」
「血だ! 血だ! 血だ! いやだ、いやだ! って、超慌てて、巻いたスピードのもう、何倍もの速さで、包帯外そうとしたんだけど、慌ててっからほら、手元が狂うし。ああいう巻いたのって、力ずくで引っ張って外そうとしたら、よけい絡まる感じ? あんだろ、ぎゅーってなって、さあ、もう、パニック」
「パニックなりますね、それは」
「足首から取れねーの。なんかだまになって。引っ張っても、引っ張っても、足んとこ、絡まって、ずるずる、ずるずる」
「やば」
「なんとか外して。もう、ぐちゃぐちゃになったままで包帯、箱に戻して。ふた閉めて。ゴミ箱」
「血、ついてたのって、他の包帯は? 見ました?」
「きれいなやつだけ、おもちゃにしようとか。そんな余裕あるわけないだろ、もう、全部捨てたって。つーか、きれいでも、気持ち悪くね? 同じ箱に入ってたんだから、さあ」
「んでゴミ箱に捨てた、と」
「そう。それですぐに風呂場行って、手も足も石鹸で洗いまくって」
「それはホラーな体験」
「だよな。怖いだろ。なんかずっと忘れてたけど。記憶のふた、開いた」
「また閉じといてください」
「そうする。つーか、俺、今、汗すごいんだけど。やっば」
「スタジオ、涼しいのに」
「って、お前も首んとこ、たれてっし」
「あー、ほんと。なんかすごい、ホラーでした」
「だろ」
「でもそれ、親とかには話してないんですか? こんなものが入ってた、とか」
「話してない、な。なんでだろ。話しちゃいけない気が、した? したのかな、というか怖すぎて、そういう判断できなかったな」
「ゴミ箱に捨てた、ってことは、それをさらに、家族が処分してくれた、ってことですよね? 誰か確認したりしなかったんですかね?」
「してない、のかな。どうなんだろ、でも、包帯の話なんか誰もあの後もしてなかったし」
「ってことは、見てない」
「ん。たぶん」
「それからもその人からは、おさがり、きたりしてたんですか?」
「あー、……あれ? どう、だった、かな」
「思い出せない?」
「えー、マジ思い出せない」
「思い出したくないのかも」
「かも」
「でもなんで、そんなものを、置いといたんですかね。その人。血の付いた包帯なんて」
「さあ?」
「そういうのでも、捨てたくなかったんですかね。で、大事に隠しておいたのが、いらないおもちゃに、紛れ込んで。ノリアサさんところに、届いちゃった、とか」
「ええー? 捨てたくないとか、ある?」
「まあでも、好きな人から出たものだったらそういうのでも、欲しいかも、とか」
「ネリは気持ちわかる感じ?」
「まあ、僕も集めてますから」
「え」
「ひげ」
「え、待ってお前いつの間に、ええ? ひげ!?」
「なんでノリアサさんが慌ててるんですか。うちの猫のですよ。ねーこ」
「ねこ……、あー、猫! 猫のひげか、あー、びびった」
「はい。というわけで、ホラーな体験談いかがでしたでしょうか」
「いや俺、ネリがいちばん怖えわ」
「いちばん、ありがとうございます」
「どういたしまして。えっ、今日これで終わり?」
「あ、いい感じの時間ですね。では、今日の放送はこのへんで。ではまた! ネリと……」
「ノリアサでしたー! またねー」
*
*
*
(2023/08/13 ON THE AIR「フリートーク」)
「こんばんは、ネリです」
「ノリアサですーって、久しぶりすぎますね」
「ね、久しぶり」
「自分らはほとんど毎日会ってるんですけどまあ、へへ、お久しぶりです」
「ですです」
「元気でした、ネリさん」
「え、元気ですよそんな、あははー、ノリアサもめっちゃ元気じゃん毎日」
「ですね、元気元気」
「最近あれですよね、行ってますか、あれ」
「あれって何ですか」
「あれ、あのあれ、なんだっけ」
「何ですかーあ」
「あ、あれだ、サウナ」
「サウナ! え、サウナ思い出してたの、ええー、やば」
「やばいですね、暑くて飛んじゃった」
「そうですね、サウナ行ってますね」
「こないだ僕それで、あれ見たんですよ」
「ちょっとネリさん、ちゃんと固有名詞出してこ。あれじゃわかんない」
「あれですよ、あの、サウナの、キッチンカーみたいな」
「固有名詞ですかねそれ? いやまあわかりますけど、サウナカーでいいのかな」
「そう。トラックの荷台にサウナのせてて、入れるやつ」
「あれどうなんですかね、安全性とか」
「大丈夫じゃないんですかね? 手作りならやばいか」
「手作りは……やばそうですよね」
「あ、セットでアイスサウナ号もありましたよ」
「え、ひゃっこいやつ?」
「だと思います。水風呂? 氷かな」
「え、ネリさん入ったわけじゃない?」
「ないですね、見かけただけです。やってんなーって」
「あー、やってんなー」
「はい」
「入りたいとか思いません? そこで」
「ノリアサさんなら入りました?」
「えー、そりゃあまあ。あー、やってんなーって」
「通り過ぎてんじゃん」
「いやだって日中暑いし。昼はむりっス。帰ってアイス食おーってなりますって」
「あ、あれ飲むんですよね、おろ……」
「ちょ、ネリさんストップ。商品名って言っていいやつ?」
「商品名っていうかまあ、合体するからいいんじゃないですか? ぽか、と」
「文字数多い」
「今すでに混ざったの売ってません?」
「どうですかね、じゃ、やめときますか。とりあえずあの、黄色い汁とうっすい乳白色の汁を混ぜたやつ」
「混ぜたやつで。あれうまいですよけっこう」
「まあどっちも、単品でおいしいから」
「ネリさん飲んだことない?」
「まだないですねえ」
「ちょっとあの、ファミレスのドリンクバーの悪ふざけした飲み物的な雰囲気はありますよね」
「あー、なんでも混ぜたのおススメしてくるやつだ」
「大人もやっていいんですか、あれ」
「いいんじゃないですか。ノリアサさんきっついの作りそう」
「いやいやいや、食べ物では遊ばない主義なんで」
「遊ぶってもう言ってるし」
「遊ばないですけど、あ、それでさっきのおろー、と、ぽかーのやつ」
「文字数多い」
「あれ、夏はかき氷にかけるとかどうですかね、パワーアップ」
「ええ、氷だとうっすくなりません? 味」
「じゃあぽかーの方を、凍らせて、氷にして。おろーの方を、こう、しゅわしゅわっとタレに」
「タレ? みつ?」
「あ、みつ? かき氷のたれ? かき氷のみつ? あ、みつだ」
「みつですね」
「一緒に食べたらあれの味になるっていう」
「溶かして飲んだらあれになるっていう?」
「え、凍らす意味あった?」
「ないですね」
「ないですよね」
「え、ノリアサさん認めちゃったら、ここまでの話意味なくないですか」
「ない……ですね」
「えー」
「あはは」
「まあ久しぶりだから仕方ないですね」
「暑いですし」
「暑いですしね」
「元気だってお伝えできたらいいんじゃないですかね」
「ですね。元気でーす」
「収録終わったら行きます? サウナ」
「ネリさんも行く?」
「えー、僕あの、ととのっちゃうと逆によくないんで」
「何ですかそれ」
「ノリアサさん出てくるの待ってます。ぽかーとおろー、買っとくんで」
「お、半分こしますか」
「その場で」
「その場でってどういうことですか」
「ノリアサさんが先にぽかーを半分飲んで」
「飲んで」
「その間に僕はおろーをこう、半分飲んで」
「はい」
「で、交換したら」
「いや待ってそれ、ふつうにいつものやつ飲んでません?」
「あ、じゃあ半分ずつになったやつを一本にして」
「そうですね、やっとできましたね、あのあれが」
「あ、だめだ、間接キスだ」
「気にするのそこですか」
「そこですね」
「みんなコップとか持ってんスかね」
「ですねえ、難しいな。もうファミレス集合でよくないですか? なんか似たやつ混ぜて作りましょ」
「ネリさん絶対行く気ないですね、サウナ」
「ないですねー、暑い!」
「行く気ないのに誘うの何ですかそれ、よくないですよ」
「まあ、フリートークなんでね、フリーで」
「フリーすぎますね。あ、終わりだ」
「唐突ですね、まあいいか。ではまた! ネリと……」
「ノリアサでしたー! またね」