帰還。
「ああ、ああ、よくぞ、ご無事で……」
御神体を見たお稲荷さんは、そう言ったきり、うずくまってしまった。
肩が小刻みに震え、小さな嗚咽が聞こえてくる。
「……」
いや、うん、私も良かった……。
万が一と思って、最低限しか御神体には触れないようにしたのだ。
気にしすぎだ、とみう達には笑われてしまったが。
だって、私が触れたせいで穢れたりしたら、どう責任を取ったらいいのか……。
お稲荷さんが、前足でぐしぐしと涙を拭った。
「つかささん、本当にありがとうございました」
私に向かって、深々と頭を下げる。
「はい」
私は、にっこりと笑ってみせた。
「これで、もう大丈夫だよね?」
「はい。来年の神在月には、新しい神が誕生なされます」
えーと、神在月って10月だったかな? いや、旧暦?
で、この世界だと、茜月……?
ややこしいな、おい。
「依頼料なのですが、ギルドを通した方がよろしいでしょうか?」
お稲荷さんが、首を傾げてそう言った。
「やめて下さい……」
猫神の紹介で。
お稲荷さんに依頼されて。
御神体を取り返して。
そんなトンデモ依頼を受けたなんて、ほかの冒険者に知られたりしたら……。
下手に目立つと、ろくな事にならない。
「では、こちらを」
お稲荷さんは、金糸で刺繍してある小さな巾着を差し出してきた。
中には、大粒の真珠がぎっしりと入っていた。
いや、多い、多い!
「こんな高そうなもの、受け取れないよ……」
「いえ、受け取ってもらわねば、私が困ります」
今日のお稲荷さんは、圧が強い。
「それとも、我が真珠国の神には、これだけの価値もないとおっしゃるおつもりですか」
「ええー……」
それを言われたら、断れないでしょうが……。
「はい、いただきます……」
私が受け取ると、お稲荷さんは満足そうにふさふさのしっぽを揺らした。
「それと、こちらも」
「御守り?」
見覚えのある、小さな袋を渡された。
「私の神通力が、込めてあります。三回まで、身代わりをさせる事が出来ます」
「へぇ、スゴいね」
昔話で、そんなのがあったような……?
「本当に、お世話になりました」
「もう、いいよ」
「これから、どうされるのですか?」
「一回、女神様のところに顔を出して……」
んー?
何か、忘れているような……?
「あ!」
黒のキャラバンの連中、大草原に置いてきたままだった……。




