誓い。
精霊樹の根元に、大きな真珠が大事そうに置かれていた。
「すまない。間違えて、やつらから奪ってしまった」
エルフ達の長だという人が、謝ってくれた。
「いえ、むしろ良かったと思います。穢れがあったら、神様にはなれなかったらしいですし」
自分達の信仰している神様ではなくても、エルフ達は大事に扱ってくれていたようだし、精霊樹の根元で御神体は安心しているように思えた。
「こちらこそ、うちのドラゴンが……」
「いや、元々やつらに奪われたのは三ヶ月も前なのだ」
奪った相手は、みうの「とおみ」の力ですぐに突き止めた。
しかし、移動し続けるキャラバンを追うために、まだ成人していないみうも追っ手として参加したのだが、その途中でみう自身が捕まってしまった。
エルフの長は、そう言った。
なるほど。
そして、「とおみ」の力を知った魔導の塔の連中が、黒のキャラバンからみうを買ったという事か。
「みうの事でも、あなた達には大変世話になった」
「あれは、こっちも魔導の塔ともめていたというか……」
ぶっ潰さなければ、猫達に何をされていたか分からない。
まぁ、そうなったら、うちの魔王様が世界を滅ぼしていただけの話か……。
「あと、木を倒してしまってすみませんでした」
「非常事態だったのだから仕方がない」
それに、そろそろ手を入れなければいけない時期だった、と本当かどうかは分からないけれど、そう言ってくれた。
エルフの長は、両膝をつき、片手を額に当てた。
「え、あの?」
「これは、我らエルフが大事な誓いをたてる時に行う仕草だ」
「はぁ……」
「今後、何があろうとも、我らエルフはあなたや猫達の味方であり、友である」
「あ、ありがとうございます」
私も慌ててぺこりと頭を下げた。
「つかさ!」
そこへ、みうが駆け寄ってきた。
「とう様、話は終わった? つかさ、連れていっていい?」
とう様……?
みう、長の娘だったの?
「ああ、大丈夫だ」
立ち上がり、長はみうを見て柔らかく笑った。
そして、私にもう一度礼を言った。
今度は、父親として。
「娘を救ってくれてありがとう」
「……はい」
「つかさ、今日、泊まっていく?」
きらきらした目で、みうが私を見た。
「明日の朝、虹雲の卵が孵るんだよ!」
数百年に一度の出来事なので、みうもまだ見た事はないらしい。
朝もやの中、虹色に輝きながら空に昇っていく様は、大層美しい光景なのだそうだ。
見たい、けれど。
「ごめん、御神体を届けなきゃ」
お稲荷さんも待っているだろうし。
「えー。皆にも、つかさや猫達を会わせたかったのに」
ふて腐れたように、みうが言う。
魔導の塔で会った時より、ずっと表情が豊かになった。
年相応……、いや、エルフだから、生きている年数はみうの方が私より上だった。
ただし、エルフ年齢でいえば、まだ子供だ。
子供らしい仕草に、つい笑ってしまう。
「また、来るよ」
まずは、御神体を届けなければ。
問題は。
私が触ったら、穢れたりしないかという事だ……。
 




