宝珠。
「ううぅ……」
くぅが短くうなると、ドラゴンはあからさまにビクッとした。
城塞都市オニキスで、りゅうたろうとおこんにやられたドラゴンは「猫は、自分より上」と認識しているのだ。
特に、ほかの猫が逆らわないくぅの事は、怖いと思っているようだった。
ドラゴンさえ、うなり声一つで怯えさせるって、もはや完全に魔王だよな……。
ちなみに、私はご飯をくれる人=好き、という認識らしい。
ドラゴンはちゃっかりお宝をゲットすると、私の後ろに移動してきた。
隠れてないからな、それ……。
ドラゴンのお土産は、黒のキャラバンから奪ったものだったらしい。
どうりで、ギルドに確認しても「ドラゴンに襲われた」という情報が出てこないわけだ。
まぁ、いい。
今は、それよりも。
「御神体は」
「卵は」
「「どこ!?」」
私とみうの声が重なった。
みう達も、黒のキャラバンに何か盗まれたのか。
よく見れば、フードの集団は皆エルフのようだった。
「さっさと吐け!」
くぅが、ゆっくりと一歩踏み出した。
足元から、炎が立ち上っている。
くわっと牙をむき出しにして、黒のキャラバンの連中を威嚇する。
「御神体は、ありません!」
怯えた男達は、あっさりと白状した。
「それは知ってる! どこに売った!?」
「売ってません!」
「そこのエルフに奪われました!」
「……は?」
エルフ達を振り返ると、彼らはぎくりとしたようだった。
「ま、間違えたんだ!」
エルフの一人が、慌てて叫んだ。視線はくぅに向いたままだ。
「私達の奪われた宝珠を取り返そうとしていたんだけど、箱に入ったままだったから、間違えたみたいなの」
みうが、必死な様子で言った。
「大丈夫。精霊樹の根元に、大事に保管してあるから」
「精霊樹の根元……」
よかった、これで神様になれる。
「私達の宝珠は、どこ?」
「それなら、ドラゴンに奪われたよ!」
ん?
「みう、宝珠って?」
「虹雲の卵なの。数百年に一度、孵化して私達エルフの里である翡翠の森を守護してくれるの」
んん?
虹……。
卵……。
ドラゴン……。
「もしかして、これ……?」
無限収納から、虹色の玉を取り出して見せた。
「なんで、つかさが……!?」
「ドラゴンが、お土産にくれた」
「……え?」
みうの顔に?が浮かんでいる。
「みう、ダメだ!」
「もう、日が落ちる!」
エルフ達は、悲鳴のように叫んだ。
「どうしたの?」
「今日の日没まで、精霊樹の泉に卵を入れないと、また孵化するまで数百年かかるの」
みうは、私の顔を見上げた。
「つかさ、お願い」
「了解」
と、その前に黒のキャラバンをどうにかしないと。
「おこん、『創成魔法』。大きなペットケージ!」
がしゃんっ、という音と共に、黒のキャラバンは巨大なペットゲージの中に閉じ込められた。
私の後ろで、ドラゴンはぷるぷると震えている。
自分が閉じ込められた時の事を思い出したらしい。
「くぅ、『土魔法』!」
ペットケージの回りを、隆起させた地面で囲った。
これで、逃げられないだろう。
「キング、『空間転移』」
目的地は。
「エルフの里、翡翠の森!」




