魔王、降臨。
せりをキャットハウスに入れて、戦闘体勢を整える。
「りゅうたろう、叩きのめして! 福助は、合図があるまで待機! くぅは……、あ」
これは、ヤバい。
くぅの逆立てた毛がばちばちと静電気を起こし、目がらんらんと光っている。
またしても、首輪を見てキレてしまったようだ。
「うなぁぁぁおぅぅぅ!」
うなり声が響く。
空気が、びりびりと震えているようだった。
魔王モード突入だ。
……猫は、嫌な事をした相手を一生忘れないらしい。
しかも、特にくぅは執念深い。
「とどめをさしたらダメだからね……」
一応、声をかけておく。
御神体の行方が分からなくなってしまっては困る。
まずは、みうを助け出さなくては。
フードの集団が、弓をかまえた。
みうさえ助かれば、彼らも攻撃できるのだろう。
「おこん、『創成魔法』。水風船!」
水風船を投げつけると同時に、くぅが剣魔法で攻撃をする。
顔面で割れた水風船に、みうを捕まえていた男が一瞬怯む。
「りゅうたろう!」
すかさずりゅうたろうが飛び掛かり、男は地面に倒れた。
「みう、りゅうたろうに乗って!」
「うん!」
みうは、りゅうたろうの背中にしがみついた。
地面を蹴り、りゅうたろうが跳躍する。
ひらりと音もなく、りゅうたろうは私の横に降りてきた。
「よつば、首輪を『解除』!」
よつばが前足をちょいちょいと動かすと、首輪は音を立てて地面に落ちた。
「みう、大丈夫?」
「うん……」
前に見た時より、いくらかふっくらとし、身綺麗になっていたが、その顔は青ざめていた。
がくがくと震えている足には、いくつも傷があった。
「チャビ、『回復』」
ごろごろと喉をならしているチャビを抱かせて、みうには後ろに下がってもらう。
フードの集団が、矢を射ち始めた。
「うなぁぁぁぁおぉぉぅぅぅ!!」
魔王が、いや、違った。
くぅが、再び雄叫びをあげた。
「!?」
地面がひび割れ、隆起する。
土魔法で造られた突起が、キャラバンに向かって牙のように突き立てられようとしていた。
「くぅ、ダメ! やりすぎ!」
御神体の行方が分からなくなってしまう!
その時。
ばっさばっさと羽音を立てて、大きな影が近づいてきた。
……忘れてた。
フードの集団が、慌ててドラゴンに向けて弓矢をかまえた。
「ダメ! あれ、うちのドラゴンだから!」
私の言葉に、その場にいた全員が「は?」という顔になった。
ドラゴンが降りてきて、キャラバンの馬車をその爪でべきべきと破壊した。
そのまま、ご機嫌な様子でキャラバンの荷を漁っている。
ドラゴンちゃん、あんた、状況を見なさいよ……。




