御神体。
「立ち話もなんですので、どうぞ、こちらに」
……サクサク進めるな、おい。
お稲荷さんに導かれ、私達は社の中に入った。
中に入ると、予想外に広い空間だった。
私のテントと、同じ仕組みなのだろう。
「お茶をどうぞ」
「ご丁寧に、どうも」
お、緑茶だ。
「私は、この神社の神使の稲荷でございます」
でしょうね。
「実は、大変困った事になっておりまして」
ふさふさの尻尾が、しょんぼりと垂れている。
「猫神様に相談したところ、もうすぐそちらに猫を連れた冒険者が行くから、とおっしゃられまして」
「……」
猫神、お前、何してくれてんだ……。
って、いやいや、神様相手に私は何を言っているんだ。
しかも、恩のある相手に……。
例え、面倒を押し付けてんじゃねぇよ、と思っていたとしても、だ。
「助けていただけますか?」
「すいません。事情を教えてもらえないと、返事は出来ないです」
「あ、そうですよね」
実は、とお稲荷さんがにじり寄ってきた。
「大きい声では言えないのですが……」
私の耳元で、お稲荷さんが囁いた。
「御神体が、盗まれてしまいまして」
「…………は?」
御神体って、盗まれるものだったか?
この世界では、本当に神様が宿っているはずだ。
それが、盗まれた?
そんなバカな。
「私が、いなり寿司を買いにさえ行かなければ……」
「…………」
多分、問題はそこじゃない……。




