峠。
真珠国には、いつか行こうと思っていたので、ギルドからの依頼を引き受けた。
「……確かに、ものさびしい感じだよねぇ」
峠にさしかかったが、途中でキャラバンを追い越しただけで、あとは誰とも会っていない。
魔物はともかく、山賊すら出てこない。
「まぁ、当然か」
こんな所を女一人で通るということは、それなりに腕に自信があると言っているようなものだ。
よほど切羽詰まっているのでない限り、山賊も手を出してこないようだ。
私の場合、自分じゃなくて猫達だけどな……。
さっきのキャラバンも冒険者を雇っていたみたいだし、問題ないだろう。
「この辺りで、一休みするかな」
少しひらけた場所でテントを張った。
焚き火のあとがいくつもあったから、峠越えをする人はみんなここで休憩しているようだ。
「ご飯だよ」
猫達にご飯を出し、無限収納に入っているドラゴンにもキャットフードをあげた。
魔物が襲ってきたと思われそうなので、ドラゴンは外に出せないのだ。
「私は、何食べようかな……」
不意に、せりがご飯から顔を上げた。
イカミミの警戒体制だ。
「気配察知」だ!
魔物か!?
猫達みんなが、耳を動かして様子をうかがっている。
私も耳をすませてみるが、何も聞こえない。
まぁ、猫に勝てるわけないよな……。
「ん?」
これは、蹄の音か?
テントから出てみると、馬に乗った少年が駆けてきた。
私の姿を見ると、転げ落ちるように馬から降りてきた。
「た、助けて下さい!」
「どうしたの?」
「キャラバンが、盗賊に、襲われて……」
息を切らしながら、少年が言った。
「冒険者は? 護衛を雇っていたよね?」
ぶわっと少年の目に涙が浮かんだ。嗚咽して、言葉が出てこない。
「泣いていたら、分からない!」
怒鳴り付けると、少年はぐっと唇を引き結んだ。
「山賊と、グル……」
「!」
急いでテントをしまう。
護衛に雇った冒険者達は、最初から山賊と組んでいたようだ。
商人達が馴染みの冒険者以外雇わないのは、こういう事態を避けるためだ。
「キング、キャラバンの近くに『空間転移』!」
少年と馬も一緒に転移する。
悲鳴と、金属がぶつかり合う音。
「?」
冒険者同士が戦っている。
「あの人達は?」
「味方なのは、いつものパーティが紹介してくれた人達です」
なるほど。
「りゅうたろう、大きくなって!」
肩からひらりと飛び降りたりゅうたろうが、虎ほどの大きさに姿を変える。
「チャビは『回復』! くぅ、チャビを守りながら攻撃!」
敵と味方が入り交じっている中で戦うのは、猫達には初めてだ。
まぁ、でも、うちの猫達なら大丈夫だろう。……福助以外は。




