鐘の音。
この状況を打開するには、どうすればいい?
出来れば、街も救いたい。
「……」
私にしがみついていたチャビが、ごろごろいい始めた。
猫が喉を鳴らすのは、機嫌がいい時とは限らない。
痛い時や怖い時に、自分自身を落ち着かせるために喉を鳴らす事もあるのだ。
チャビの目は瞳孔が開き、肉球は汗で濡れていた。
くぅは、魔導師達と魔力をぶつけあっている。
老師と呼ばれた男は、私には聞き取れない言葉で呪文を唱え続けていた。
どうすれば……?
肩に乗っているりゅうたろうが、ぴくりと耳を動かした。
ごおおおおんっ、と鈍くて大きな音がした。
これは、鐘の音か?
魔導師達の顔に、驚きの表情が浮かんだ。
「鐘が、鳴った……?」
「ずっと鳴らなかったのに、何故だ?」
……そうか。
チャビが、このままごろごろいい続けてくれれば……!
チャビの回復は、復元に近い。
病気や怪我が治るのは、治癒というより、その状態になる前に戻っているのだ。
建物が真新しくなるのは、そのせいだ。
なら、すでに真新しくなってしまっているこの塔は?
「!」
塔が揺れ始めた。
天井から埃が落ちてくる。
やっぱり、そうか。
塔になる前に、建物の形になる前に、復元しようとしている!
「くぅ!」
鐘の音で、正気に戻ったようだ。
私の呼びかけに反応した。
「逃げるよ!」
足元がたわみ始めた。
「りゅうたろう、大きくなって!」
大きくなったりゅうたろうの背中に、チャビとくぅを抱えてしがみつく。
無限収納から、おこんが作ったキャットタワーを取り出した。窓のすぐ近くに、空までそびえるようなタワーを設置する。
壁が崩れ始めた。
「りゅうたろう、飛んで!」
塔が、崩れる!
「ぐっ……」
無事にキャットタワーに飛び移れたが、ダメージが……。
エアバッグが欲しかった。
あっという間に、塔は崩れてしまった。
瓦礫の中に、大きな鐘が落ちていた。
街の様子を眺めてみたが、特に変わった様子はない。
あいつらが言っていた結界とやらが、被害を広げなかったようだ。
「さて、あとは」
ここから、どうやって降りよう……。




