黒い猫。
「うん、ここだ」
マップを出して確認する。
どう見ても森だが、マップにはラピスラズリの表示がある。
女神様に、どうやったら入れるかは聞いてきた。
「えーと、言葉の持つ意味を思い浮かべて……?」
《ことわり》からはずれたもの達が隠れすむ村。
「……ここは、『ラピスラズリ』」
ぶわっと風が吹いたような感触だけがあり、視界がひらけた。
偽りの森が消え、小さな集落が姿をあらわす。
「こんにちは」
「あ、猫の人」
……あんた達もか。
「この間は、ご迷惑をおかけしまして。大丈夫でしたか?」
「ああ、うちはなんともなかった」
「あんた、大変そうだったけど大丈夫だったかい?」
「まぁ、一応」
どうにか、世界が滅ぶのは止められました……。
「長老さんはいますか?」
「今の時間なら、広場じゃないかな」
広場に向かうと、長老さんが女の人達と話していた。
「こんにちは」
「ああ、猫の」
………………。
「この間は、ご迷惑をおかけしまして」
「いや、いや。結界も張り直してもらえたし、女神様にお声までかけていただけた」
うん、うん、と長老は頷いている。
「これ、よかったら皆さんでどうぞ」
無双収納から手土産を取り出した。
麦で作った発泡酒と、ルッコという甘酸っぱい果実を練り込んで焼いたお菓子だ。
この世界での主食はパンだ。
隠れ里であるラピスラズリでは、パン以外のものを作れるほどの麦を栽培する余裕はないだろうと思って買ってきたものだ。
「おお、これは」
案の定、長老は発泡酒を見て嬉しそうに笑った。
まわりにいた女性達も嬉しそうだ。
「あと、これも」
猫の置物を見て、長老は首をかしげた。
「こちらは……?」
「女神様に加護をかけてもらったので、御守りがわりにして下さい」
「なんと、女神様が……」
長老は涙ぐんでいる。
女神様本人はたいした御利益はないと言っていたが、喜んでもらえたようだ。
「ん?」
腰のあたりをとんとんとされて振り向くと、銀の髪と瞳の少女が立っていた。
「『さきみ』の……」
名前を聞くと、ラーラだと答えた。
「ラーラちゃん、どうかした?」
「ねこ……」
「猫?」
触ってみたいのか?
うーん、チャビとキングなら触らせてくれるかな。
「ねこが、あぶないの……」
「え?」
「くろいねこが、あぶない」
「!」




