激闘! クラーケン襲来! ……え、これ、そんな話だった?
やばい。
あのでかさは、絶対にやばい。
逃げた方がいい。
それは分かっている。
だけど。
一週間近くも滞在していれば、顔馴染みも出来る。
食堂のおじさんのご飯は美味しかったし、宿屋のおかみさんは優しかった。
猫を探していると言ったら、情報を集めてきてくれた子供達もいる。
「…………」
ええい、ままよ。
女は度胸! 猫は愛嬌!
「せり、『隠密』」
せりを抱いていれば、私の姿も見えなくなるはずだ。
私は逃げ惑う人達の間をすり抜けて、港へ向かった。
猫達の中で攻撃出来るのは、りゅうたろうと福助だ。
ただし、りゅうたろうは海の近くでは戦えない。引きずり込まれでもしたらアウトだ。
福助では街ごと吹き飛ばしてしまう。
一応、思い付いた事はあるけれど。
「うまくいくと、いいけど……」
女神様のくれたチートスキルを信じるしかない。
堤防に着くと、クラーケンが近付いてきているのが分かった。上陸する気だ。
近くで見ると、さらに大きいな、このタコ。
「福助、『風魔法』。全力でやっちゃって!」
「にゃ!」
福助が張り切って一声鳴いた。
海に向かってなら、全力でも問題はない。
福助の起こした大風が、海の水ごとクラーケンを巻き上げた。そのまま、街の外へと吹き飛ばす。
よし、うまくいった。
あとは、多分どうにか出来る。
「福助、えらい!」
福助は、頭を撫でた私の手を嬉しそうに噛んだ。
だから、痛いって!
私達は、クラーケンの落ちた場所へと走った。
せりを抱いたままなのに、息も切れていない。
身体能力強化(レベル1)のおかげか?
私のスキルは地味な物ばかりだけど、役には立っている。
いつも、アホ女神とか思って悪かったかな……。
街の外は草原だったはずだが、クラーケンと一緒に吹き飛ばされた海水で足場が悪くなっていた。
「よつば、クラーケンのスキルと魔法を『解除』して」
よつばが前足をちょいちょいと動かした。
足が汚れたのが嫌なのか、不機嫌そうだ。
だけど、これでクラーケンなどただの大きいタコだ。
「りゅうたろう、大きくなって。最大で」
……りゅうたろうも大きいねぇ。
大丈夫、猫は大きくなっても可愛い!
「クラーケンを押さえ付けて」
大きさではりゅうたろうが勝っていたが、ぶよぶよ、ぬるぬるのボディと足の多さに苦戦しているようだった。
なんで、タコのくせに足が14本もあるんだ!
「ごめん、りゅうたろう。もう少し頑張って」
よし、最終兵器投入だ。
「チャビ、『回復』」
私はチャビの喉を撫でた。
次第にごろごろが大きくなってきた。
クラーケンの目がしばしばしてきている。
よし、もう少し!
撫で続けていると、チャビのごろごろはさらに大きな音になった。
クラーケンの身体から力が抜けていく。
そして。
クラーケンは完全に眠りに落ちた。
「よっしゃ!」
って、大きな声を出したらまずいか……。




