魔王。
「うなぁぁぁぁおぅぅぅぅぅ!!」
くぅが、怒り狂っている声がする。
くぅの怒りによる「威嚇」で、世界が震えている。
せっかく、運命神の《ことわり》を燃やしたのに。
魔王と化したくぅが、世界を滅ぼしてしまう。
今のくぅなら、世界を燃やし尽くすのに十日もかからないだろう。
ダメだよ、くぅ。
「キ……ング……、『空間……転、移』……」
どうにか、声を絞り出す。
「にゃう……」
「くぅを……、みん、なを……つれて、いきな……さい……」
どこか遠くに。
猫達が、自由に走り回れる場所に。
あんた達が、望む場所に。
もう、この世界に《ことわり》は存在しないのだから。
「は、や……く……」
ああ、もうダメだ。
目を開けていられない。
ふっ、と意識が浮上した。
背中に硬いものが当たる感触がした。
これは、床か?
目を開けると、石造りの天井が見えた。
もしかして、女神様の神殿?
キングが連れてきたのか?
「……」
ダメだ。身体中が重くて、胸が苦しい。
痛みは感じないが、起き上がる事ができない。
ぬっ、と福助の顔のドアップが目の前に現れた。
「うわ……っ!?」
ああ、いや、そういう事か。
現在の状況を理解した。
私の胸の上に、福助がどっかりと座って顔をのぞき込んでいるのだ。
首だけを動かして確認すると、右腕はチャビが、左腕はりゅうたろうが、それぞれ枕にして眠っている。
足の上では、せりとキングが丸くなっている。
さっきから髪の毛にイタズラしているのは、多分おこんだろう。
珍しく、よつばも手の届く位置で眠っている。
……動けないわけだ。
トータル何キロだと思っているのよ、あんた達!
「はいはい、起きて。どいてね」
猫達をどかして起き上がる。
身体に痛みはない。
チャビが「回復」させてくれたのか。
死にかけていたはずだがな。
「ありがとう、チャビ」
チャビを撫でると、嬉しそうにごろごろとのどを鳴らしながら、頭をこすり付けてきた。
ん? そういや、くぅはどうした?
「にゃお!」
声に振り返ると、何故かくぅが仁王立ちでふんぞり返っていた。
どうした?
よく見ると、くぅは白っぽい人魂のようなものを踏みつけていた。
………………。
あれ、もしかして、それって……。
いや、まさかな。
周りをよく見てみると、見たことのある構造の神殿だった。
ただし、もっとぼろぼろだったはずだが。
中央には、フードをかぶり、本を手にした男性の白い像が立っている。
ああ、やっぱり……。
くぅが踏みつけているそれ、運命神なんだな? そうなんだな!?




