種火。
私達は、この世界で生きる事を選んだ。
私達は、すでに、ここに存在しているのだ。
それを、運命神の気持ち一つで好き勝手に変えられる《ことわり》のせいで、なかった事にされてたまるものか!
「福助、『風魔法』!」
「にゃ!」
福助が張り切って鳴いた。
福助の回りを、きらきらしたものが弾むように飛んでいる。
激しい風の渦が、運命神を襲う。
「くぅ、『剣魔法』!」
「にゃお」
くぅが作り出した数えきれないほどの剣が、運命神の身体に突き刺さる。
と思った瞬間、運命神は身体をひねらせて剣を避けた。
それでいい。
避けた先には、すでによつばがスタンバイしている。
「よつば、『魅了』。最上級!」
よつばはそっと運命神の足に触れると、くりんと首を傾げてみせた。
「にぁぁぁん?」
うちの猫達のスキルは、神様にも効果がある。
火の神様や農耕神様で実証済みだ。
運命神は操り人形のように、不自然な動きで《ことわり》を差し出してきた。
「りゅうたろう!」
りゅうたろうが運命神に飛びかかる。
運命神は我に返ったらしく、慌てて手を引こうとした。
ムダだ、もう遅い!
りゅうたろうが《ことわり》を奪い取り、私の元へと身を翻した。
無限収納から、紅い刃の大鎌を取り出す。
「神の《ことわり》を、人が損なう事など出来ぬ!」
運命神はそう叫びながら、手を伸ばしてきた。
確かに、普通の武器では無理だろう。
だが。
「これは、火の神様からもらった魔炎石と合成した武器なんでね!」
「な……っ!?」
勢いよく、大鎌を《ことわり》に振り下ろす。
突き刺さった所から小さく煙が上がり、黒い焦げ目が広がっていく。
「くぅ、燃やして!」
「にゃお!」
くぅの「火魔法」が、大鎌を種火として《ことわり》を燃え上がらせた。
この世界の《ことわり》が、ただの黒い塊へと姿を変えていく。
これでいい。
私達には、この世界で生きるもの達には、必要のないものだ。
「にゃあ!」
せりが大きな声で鳴いた。
その瞬間、私の身体は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
……まずい。
身体中が痛い。
起き上がれない。
ごぼり、と自分の口から嫌な音がするのを聞いた。
「あの時」と同じだ。
向こうの世界での、最期の記憶。
チャビが私の耳元でごろごろとのどを鳴らして、「回復」させようとしている。
ごめん、チャビ。
多分、これ、ムリだよ……。




