運命。
運命神の言っている事は、分からないでもない。
エルフ達は精霊を友としている。
真珠国では、御神体から神に成る。
アレキサンドライトにいたっては、信仰する神を持たなかった。
ふるき神々が知る人とは、あまりに違いすぎた。
だが。
みんな、好きでこの世界にきたわけではない。
私のように、猫さえ一緒ならどんな世界でもかまわない。という人間ばかりではないだろう。
エルフ達のように、滅びゆく世界から逃げてきたわけでもない。
いや、エルフ達の伝承とて、真実とは限らない。
そう言い伝える事で、あきらめようとしていたのかもしれない。
帰りたい、帰りたい、帰りたい……!!
その想いが、どれほどの強さだったのか。
魔導の塔の連中や、真珠国からわかれたもの達のように、その願いの強さゆえに歪んでしまうほどに。
けれど、この世界で生きる事を選んだ人達もいる。
それこそ、「運命だと思って受け入れた」のだ。
お稲荷さんのように、心の奥底に「帰りたい」と願う気持ちを押し込めて。
そんな、可哀想で、健気で、強い人達を、運命神は「昔はよかった」という身勝手な理由で消し去ろうとしている。
……ふざけんな。
そんな事、例え神サマだって許さない!
「くぅ、あの本を燃やして!」
「にゃお!」
くぅの「火魔法」が、運命神が持つ《ことわり》に火をつけた。
「愚かな真似を……!」
運命神がうめくように叫んだ。
火はすぐに消えてしまった。
だが、一瞬ではあったが、確かに火はついた。
つまり、《ことわり》は燃やせるのだ。
「キング、『影魔法』で拘束! おこん、『引っ掻き』!」
キングの影が長く伸び、運命神の影を捕らえた。
おこんは運命神の足を引っかくと、素早く後ずさった。
「何を……!?」
ぎしぎしと音を立てそうな動きではあったが、運命神はまだ動けるようだった。
さすがは神サマだ。
「りゅうたろう、本を!」
大きくなったりゅうたろうが、運命神に飛びかかる。
運命神が手を振ると、りゅうたろうは宙へ飛ばされた。
「りゅうたろう!」
くるりと一回転をすると、りゅうたろうは私の横に着地した。
「大丈夫!?」
「グルルル……!」
りゅうたろうのうなり声を久しぶりに聞いた。
「チャビ、『回復』して」
チャビがごろごろとのどを鳴らしながら、りゅうたろうに寄りそった。
今ので、運命神に警戒されてしまった。
だが、どうしても《ことわり》は燃やさなければならない!




