幼き依頼者。
ギルドも閑散としていた。
冒険者の数自体も減っているのだ。
魔物との戦いで命を落としたものもいるし、怪我が原因で引退せざるをえないものも多かった。
だが、それ以上に、心の折れてしまったものが多かったのだ。
魔物の大発生を目の当たりにし、何時間にも及ぶ戦闘と、命の危険と隣り合わせといった状況に、精神が悲鳴をあげてしまったのだろう。
小さな兄妹が、掲示板の前に立っていた。
「あの、冒険者の人ですか?」
「うん、そうだよ」
「おねがいです。僕たちの依頼を、うけてください」
そう言って、兄らしき子が頭を下げると、隣に立っていた小さな女の子もぺこりと頭を下げた。
「依頼?」
「薬草の採取ですよ」
受付の窓口にいた、どっしりとした女性が声をかけてきた。
「その子達のお母さん、病気で毎日薬を飲まないといけないんですけど、その材料になる薬草が手に入らなくて……」
「依頼料も、ちゃんとはらいます」
男の子が、握りしめていた銅貨を差し出してきた。
「……いいよ。採ってきてあげる」
私の言葉に、男の子はぱっと顔を輝かせた。
「ちょっと珍しい薬草で、この近くでは採れないんですよ」
受付の女性が、てきぱきと地図と資料を用意した。
おそらく、彼女もこの子供達の事をずっと気にかけていたのだろう。
「この森の周辺で生える銀月草って薬草で、夜にしか採れないんです」
昼の間は、採ると枯れてしまうらしい。
場所と、銀月草の特徴を確認する。
「……夜は、魔物が出る可能性も高いです」
「多分、そっちは大丈夫」
依頼書に書いた私のサインと、登録証明書を見比べていた女性がぎょっとしたように顔を上げた。
「まさか、あなたが《竜殺し》……!?」
「うん、まぁ、一応……」
「え……」
声に振り向くと、男の子が涙目で私を見ていた。
「ぼ、僕たち、そんなすごい人にはらえるほど、お金がありません……」
「おかあさんのくすり、とってきてもらえないの?」
妹も泣き出しそうだ。
「別に、それだけでいいよ」
銅貨を握りしめている、男の子の右手を見ながら言った。
「でも……」
「いいんだよ、本当に」
私がずっとやりたかったスローライフ。
猫達と一緒に、この世界を冒険するはずだった。
今いるここは、本当に、あの日わくわくしながら旅立ったのと同じ世界なのだろうか。




