恐れていた事。
銀色の髪をした少女が近付いてきた。
ラーラだ。
しばらく見ない間に大きくなったなぁ。
「…………」
不安材料の一つが、神様達と人間の時間の感じ方の違いだ。
農耕神様は前のフラーの襲撃を「少し前」と言い、ミーコさんは向こうの世界で私の家にいた十年間を「一休み」と言った。
神様達は、出来るだけ急ぐと言ってくれた。
けれど。
それは、人間にとってどれくらい先の事になるのだろう。
私の顔を見たラーラが、困ったように首を傾げた。
いかん、怖がらせたか。
「お菓子、持ってきたよ」
気を取り直し、ラーラに向かってにっこりと笑ってみせた。
とろりとした蜜を閉じ込めた、ふんわりとした食感の焼き菓子で、私の気に入っているものだ。
ルッコの実のジュースもあるが、農耕神様の神殿ではいつでも飲めるみたいだしな。
ラーラはお菓子を受け取ると、反対の手で私の服をつかんだ。
「どうしたの?」
「……あぶない」
「え?」
ぎゅうっと、ラーラの手に力が入った。
「きつねさんの国が、あぶない」
「……!」
まさか、それは。
「黒いものが、きつねさんの国にくる」
「…………」
とうとう、恐れていた事が現実になろうとしている。
今まで黒い霧におおわれていたのは、村や町だった。
それも次第に大きくなってきていたが。
それでも、ギルドや管理している都市などの努力で、今まではほとんど犠牲を出さずにすんでいた。
だが、国や大都市がおおわれた場合の事は、まだ対応が協議中のはずだ。
真珠国は、いずれ狙われるだろうとは思っていた。
運命神が認めない、《ことわり》をはずれたもの達が造った国なのだから。
お稲荷さんにも忠告はしてはいる。
だが。
「早すぎる……」
このままのペースでは、神様達は間に合わない……!
いや、落ち着け。
私は今までと同じように。
今、出来る事をするだけだ。
「ラーラ、農耕神様にその事を伝えてくれる?」
私の言葉に、ラーラはこくりと頷いた。
私はスマホを取り出し、女神様に連絡した。
「というわけだから、ほかの神様達にも伝えておいて」
『わ、分かりました』
「あと、火の神様にサナ達を応援によこしてほしいって言っておいて」
『はい。エルフさん達にも伝えておきますね』
「うん、お願い」
『…………』
女神様が、一瞬黙り込んだ。
『つかささん、気をつけてくださいね』
……どうした?
『つかささんがいなくなったら、猫さん達はどうなるんですか!?』
「…………」
いや、うん。それでこそ女神様だ。
さて、行きますか。
「キング、『空間転移』!」




