魔王の怒り。
ダメだ!!
そう思った瞬間、ちりん、と小さな鈴の音がした。
まばゆい光が私を包み込み、気がつけば私に向かって短刀を振り上げていたやつは倒れていた。
「……?」
ふと腰にぶら下げていた御守りが光っている事に気がついた。
「これは……」
お稲荷さんのくれた御守りだ。
三回だけ身代わりになってくれると言っていたそれは、地下迷宮の時に一度だけその力を発揮した。
そうか。今のが、残り二回のうちの一回だ。
「おこん、大丈夫!?」
私の元に、おこんが駆け寄ってきた。
キングと福助も慌てた様子で、走ってきた。
「どうしたの?」
原因はすぐに分かった。
くぅだ。
逆立てた毛がばちばちと静電気を起こし、牙をむき出したその顔はもはや猫というより猛獣にしか見えない。
おこんと私が殺されそうになり、くぅがキレたのだ。
「うなぁぁぁぁおぅぅぅぅぅ!!」
くぅの雄叫びに、空気がびりびりと震える。
怒りの炎が、くぅを取り巻いているようだった。
ヤバい、まずい。
世界が滅びる!
やつらは真っ青になり、がたがたと震えていた。
……あいつら、世界を滅ぼすつもりじゃなかったのか?
思い通りの展開になったんじゃないのか?
いや、世界を滅ぼすだけの力というものを、本当の意味では理解していなかったのだろう。
目の前にして、初めてその威力に気づき怯えているのだ。
そして、その力は自分達へと向けられようとしている。
別に、やつらがどうなろうと知った事ではない。
クラーケンやドラゴンちゃんに呪いをかけて操ったり、ドワーフ達の住む火山都市ガーネットの休火山を噴火させようとしたり。
自分達のために、平気で他者を犠牲にしようとしたのだから、自業自得だ。
だが。
うちの猫に、世界を滅ぼすような事をさせるわけにはいかない。
とはいえ、あそこまでキレているくぅは見た事がない。
どうしたらいいんだ……。
ひょい、とキャットハウスからチャビが顔を出した。
くぅに近づいていく。
「チャ、チャビ、大丈夫……?」
姉弟猫であるチャビは、ほかの猫達よりくぅを怖がらないが、普段は空気を読んでキレている時は近づかない。
怒り狂っているくぅに、ごんっと体ごとぶつかっていく。
「シャー!!」
案の定、くぅはチャビに向かって威嚇の声をあげた。
しかし、チャビはごろごろと喉を鳴らしながら、なおもくぅにまとわりついていた。
結局、折れたのはくぅの方だった。
渋々といった感じではあったが、ぺろっとチャビの頭をなめたのだ。
「助かった……」
これで、世界は救われた。
さすが、チャビ!
魔王の怒りを静めるとは、癒し系を通り越して、もはや聖女ポジションだ!
……オスだけど。




