隠密。
すっと、ごく自然な感じで近寄ってきた。
だが、せりが警戒している。
しかも、近付いてきたやつとは別の方向を見てうなっている。
……囲まれたか。
まぁ、囲まれたところで、ただの人間にうちの猫達がやられるわけがない。
そう思って油断していた私のミスだ。
何かを投げつけてきた。
地面に落ちると同時に破裂し、中から煙が出てきた。
「ぐっ……」
ひどい匂いだ。
目がチカチカするような刺激臭がする。
「りゅうたろう! せり!」
人間よりずっと鋭い嗅覚を持つりゅうたろう達は、匂いを嫌がって顔をこすっている。
「キャットハウスに戻って!」
なるほど。
猫達を無力化する気なのか。
だが、甘い。
「福助、『風魔法』! 煙を吹き飛ばして!」
うちには、めっぽうにぶ……、もとい、神経の太い猫がいるのだ!
魔導の塔のやつがしかけてきた時も、ほかの猫達は私を避けたが、福助だけは平気な顔をしていたからな……。
「にゃ!」
福助が張り切って鳴いた。
ごおごおと音を立てて風が舞い上がり、煙は跡形もなく消え、ついでに煙の玉を投げつけてきたやつも吹き飛ばした。
しかし、まだ隠れていた連中が残っている。
「くぅ! キング! おこん!」
りゅうたろうをのぞく戦闘タイプの猫達をキャットハウスから呼び出す。
よつばとチャビは待機だ。
わらわらと出てきた連中が、私達を取り囲んだ。
……思っていたより多いな。
やつらが手にしているのは、日本刀か、あれ?
ちょっと待て!
真珠国のご先祖って、船に乗っていた商人と船乗りじゃないのか!?
やつらの何人かが、手にしていたものを投げてきた。
ひゅっと鋭い音を立てて飛んできたそれは、どう見ても手裏剣だった。
「福助、『風の盾』!」
福助の作り出した「風の盾」に、手裏剣が弾かれる。
忍者……? 忍者なのか!?
そういや、忍者は商人に化けて情報収集をしたり忍び込んだりするんじゃなかったか?
どうりで、あちらこちらに細工して回ったらしいわりには、目撃されてないわけだ。
地下迷宮の魔方陣の時は、盗賊の中に紛れ込んでいたみたいだしな。
おまけに、戦闘能力も高そうだ。
だが。
「くぅ、『剣魔法』! ほかの人を巻き込まないでよ!」
「にゃお!」
のしり、とくぅが一歩踏み出した。
うちの魔王様には勝てまい。
「キング、『影魔法』で拘束! おこん、『引っ掻き』!」
何人かは捕まえて、話を聞き出さないと。
「福助、吹き飛ばせ!!」
「にゃ!」
福助の回りをきらきらしたものが取り囲む。
エルフの住む翡翠の森で、福助と契約した風の精霊達だ。
「さぁ、始めようか」
よくも、りゅうたろうとせりにひどい事をしてくれやがったな。
覚悟しろよ?




