拡大。
「来たな、《竜殺し》!」
翌朝、ギルドに顔を出すとギルドマスターが駆け寄ってきた。
「……その呼び方はやめてください」
「そんな事より、あんたに特急依頼を頼みたい」
特急依頼。
特別緊急依頼の略称で、非常事態にギルドや国などから出される依頼の事だ。
「調査に行った連中から報告があった」
ターコイズにいる冒険者をフル稼働させて、ギルドは事に当たっていた。
初級の冒険者達は、ほかのギルドへの連絡係。
中級の冒険者は、調査地とギルドの伝達を担当している。
それ以上の冒険者は、調査及び魔物の対応だ。
「村二つと、町が一つ霧に囲まれているらしい」
「町……?」
今まで報告があったのは、小さな村だけだ。
「ああ、まだ開発途中でギルドもないような所だがな」
それと、とギルドマスターは言葉を続けた。
「村にしても、今までとは規模が違う。もっと大きな村だ」
「……」
つまり、魔物が襲ってきた場合、被害者の数も増えるという事か。
「あんたには、先行している冒険者の援護を頼みたい」
いくら腕のたつ冒険者であっても、おそらく数の多さには手こずるだろう。
しかも、町の人達を守りながらだ。
「その三ヶ所でいいんですか?」
「ほかは、今いる連中で対応できるはずだ」
「分かりました。特急依頼、引き受けました」
「頼む」
霧が出た時期を確認し、町を優先する事にした。
村の方は、私達が行くまで持ちこたえられるだろう。
「キング、『空間転移』」
キングがぱちりと目を閉じると、微妙な浮遊感と共に私達は移動した。
すでに霧は消えていて、空も大地も魔物で埋め尽くされていた。
「弓、もっと射て!」
「怪我人を下がらせろ!」
「踏ん張れ! 通すな!!」
「治癒師、いったん休め!」
「まだいけます!」
冒険者達と、おそらくは町の住民達が死に物狂いで魔物と戦っていた。
「チャビ、『回復』!」
チャビがごろごろとのどを鳴らし始めた。
私達に気付いた冒険者が、大声で叫ぶ。
「《竜殺し》が来たぞ! もう大丈夫だ!!」
みんなの目に、生気が戻った。
「押し戻せ!」
「じゃんじゃん射て!」
「前線復帰します!」
《竜殺し》という呼ばれ方は苦手だが、こういう時は役に立つようだ。
「りゅうたろう、ドラゴンちゃんと空から攻撃!」
大きくなったりゅうたろうが、ドラゴンちゃんの背中にひらりと飛び乗った。
「行くよ、みんな!」




