消えた村。
だったら、力ずくだ。
「福助、全力で『風魔法』!」
「にゃ!」
吹き飛ばしてやる。
だが、霧は一瞬薄くなるだけで、またすぐに元の状態に戻ってしまう。
んー?
「福助、もう一度『風魔法』!」
「にゃ!」
「よつば、『解除』!」
霧が薄くなった一瞬に、よつばに指示を出す。
よつばが前足をちょいちょいと動かすと、霧は薄くなったままの状態をキープした。
「完全には、消せないのか……」
だが、何とか通り抜けられそうだ。
念のため、福助達をキャットハウスに戻し、私は布で口と鼻を覆った。
一気に駆け抜ける。
霧に触れた瞬間、ねっとりとした嫌な感じがした。
おぞましいとさえ感じた。
霧を抜けると、そこはごく普通の光景だった。
ただ、人の姿だけが見当たらない。
畑仕事の途中だったのだろうか、農具が乱暴に放り出されている。
近くの家をのぞくと、切りかけの野菜があり、テーブルには食器が並べられていた。
「せり、『気配察知』」
りゅうたろうにも大きくなってもらい、何かあった時に備える。
せりはぴくぴくとひげを動かしていたが、やがてしょんぼりとしっぽをたれた。
「誰もいないの?」
荒らされた様子もない。
魔物に襲われたわけでもなさそうだ。
長老の家ものぞいてみよう。
女神様の加護がある猫の置物は、長老の家にあると聞いている。
長老の家も、ほかと同じだった。
荒らされたわけでもなく、ただ、人だけがいない。
奥の棚の前で、せりが立ち止まった。
とんとん、と叩いて私を振り返る。
「どうしたの?」
のぞき込むと、粉々になった何かの破片が散らばっていた。
これ、まさか、猫の置物……?
そうだとすれば、やはり何かあったのだ。
女神様に助けを求める間もなく。
村人は、どこに消えた?
あの霧は、いったい何だ?
「にゃあ!」
せりが珍しく大きな声で鳴いた。
ん?
せりの前に、小さな動物の足跡があった。
これは、猫の足跡……?
りゅうたろうは大きくなっているし、せりの足跡よりも小さい。
この村には家畜の鳥はいても、猫はいなかったはずだ。
それに、結界があるから迷い込む事もない。
せりが反応したという事は。
「この足跡が関係ある……?」




