黒い霧。
いつものようにギルドに顔を出したが、今日は急ぎの依頼はないらしい。
じゃあ、予定を変更して買い出しにでも行くかな。
商業都市といわれているだけはあり、ターコイズで手に入らない品物はない。
真珠国やエルフの住む翡翠の森でしか入手が出来ない物でも、何とか買える。
大手の商会では、転移用の魔方陣や氷魔法を使い、品物を新鮮なまま運んでくる。
屋台も半端な数ではない。
食べ物から衣類、手製の護符など何でも売っているのだ。
ぷうん、とお腹がすく匂いが漂ってくる。
何か食べようかな。
ん?
女神様との連絡用のスマホが鳴った。
人のいない所に移動して、かけ直す。
「どうしたの?」
まさか、またどっかの神様の呼び出しじゃないだろうな。
『あ、あの、ラピスラズリが……』
ラピスラズリ。
結界を張った中で、ひっそりと暮らしている村だ。
未来が見える「さきみ」の少女、ラーラが住んでいる。
猫達を探している途中で、村を守る結界を「解除」してしまい、女神様にかけ直してもらった。
その時、女神様の加護がある猫の置物を渡した。
その置物を通せば、いつでも女神様に助けを求められる。
もっとも、日々の祈りを捧げるだけだったらしいが。
『連絡が取れないんです!』
「女神様、落ち着いて」
『昨日から祈りも届いていませんし、こちらから呼びかけても答えが返ってこないんです……』
「……」
返事がないという事は……。
私は、きりっと唇を噛みしめた。
最近、魔物に襲われる村が増えていた。
ラピスラズリには結界があるから大丈夫だとは思うが、最悪の場合も考えられる。
「今から、行って見てくる」
『つかささんも猫さん達も、気をつけてくださいね』
「うん」
キングの「空間転移」で、ラピスラズリの近くに移動する。
「……何だ、これ」
村は、真っ黒な霧で覆われていた。
濃い黒い霧で、向こう側は何も見えない。
「よつば、『解除』」
「うぅぅ」
よつばが短く唸った。
毛が膨らんで、いつもよりさらに大きくもふもふになっている。
「解除」できない……?
私が古代神語を覚えたから、今まで出来なかったものも「解除」出来るようになったはずなのに。
それに、食べ物がからんだ時以外、よつばがこんな風に唸る事はなかった。
「この霧、何なんだ……?」




