影。
巨大な影が、上空を覆う。
ヤバいな、これ……。
せりがいないので、「隠密」も使えない。
隠れようにも、ここには岩影一つない。
詰んだな……。
いや、二回までなら、お稲荷さんのくれた御守りでしのげる。
でも、そのあとはどうする?
ふっ、とキングが「空間転移」で現れた。
大きなレッドバードをくわえて、ご機嫌な様子だ。
だが、私よりドラゴンに近い!
「キング! 逃げなさい!!」
私はドラゴンの気を引こうと、大声で叫んだ。
「こっちだぞ! こっち!!」
ばたばたと手足を動かし、なるべくドラゴンの目がこちらに向くように暴れる。
だが、ドラゴンが向かったのはキングの方だった。
「キング!!」
逃げて! 早く!!
巨大な影が、キングに近付く。
その瞬間。
とぷんっ、とキングはドラゴンの影の中に沈んだ。
……え?
消えた? 「空間転移」か?
影が、ドラゴンから切り離された。
夕焼けに照らされていた影は長く伸びていて、本体のドラゴンより大きい。
巨大な影が立ち上がり、咆哮をあげる。
影とドラゴンが戦いを始めた。
空中で激しくぶつかり合い、互いの首に噛みつく。
絡み合ったまま、落下してくる。
上になったドラゴンが、影を地面に叩きつけようとした瞬間、影が消えた。
ふっ、と影がドラゴンの上に現れた。
そのまま、影がドラゴンの頭を地面へ踏みつける。
ドラゴンはもがいていたが、次第に動きが鈍くなり、ぴくりともしなくなった。
影は、空気に溶けるように消えていった。
そして、倒れたドラゴンの体の上にはキングが立っていた。
スキルを確認する。
キング 「影魔法」 影を操る。
そうか、キングにも新しいスキルが……。
でも、無事でよかった。
「キング!」
キングは一目散に私の所に駆けてくると、膝の間に顔を埋めた。
そうか、怖かったか……。
巨大なドラゴンが横たわっているのを見ながら、私はため息をついた。
でも、これ、キングがやったんだよな……?




