火の神。
ガーネットでは、火の神を信仰している。
火山の麓に位置しているという事もあるが、鍛冶を主な生業にしているのも関係あるらしい。
凝った石造りの神殿だ。
ふうむ、さすが職人の街だけの事はある。
真っ白な大理石のような石に細部まで彫った、まるで芸術作品のような像が神殿の奥にあった。
これが、火の神様か。
サナ達には、あまり似ていないな。
私は、像に向かってぺこりと頭を下げた。
「相田つかさです。幸運の女神様に言われて来ました」
……あれ? 反応がない。
聞こえてないのか?
「相田つかさです!」
「ええい、大声を出すでない!」
像の中から、美しい女性の姿をした火の神様が抜け出してきた。
……クレオパトラみたいな感じだな。
「少しくらい待てぬのか、お主!」
「すみません。聞こえていないのかと思って……」
はぁ、と火の神様はため息をついた。
「本殿の像の前で、聞き逃すわけがあるまいて」
……つまり、ほかの場所にある神殿からだと聞き逃す事もあるという事だな。
まぁ、自分が守護している国が最優先なのは当たり前か。
「まぁ、よい。まずは礼を言おう」
ふっ、と火の神様は笑ってみせた。
うーん、クールビューティー。
「噴火を防いでもろうて助かった」
「あ、いいえ」
「それと」
ごほん、とわざとらしく咳き込むと、火の神様は言葉を続けた。
「我が遠き息子と娘の命も救ってもらった」
サナとナルシの事か。
「二人は友達なので、当然の事をしたまでです」
私は笑顔で答えた。
「う、うむ。その、あれだ、いつでも頼れと言うておるのだが、あやつら、滅多に神殿にも顔を出さん」
「……」
「友達と言うたな。あの子らは、わらわの事を何かお主に話したか?」
「…………」
「その、最近はどうしておる? 前は使いを出してたずねておったのだが、依頼の邪魔だとか言われて追い返されたのじゃ」
「……………………」
「地下迷宮で閉じ込められた時くらい、わらわを頼ればいいものを。お主も、そう思うであろう?」
火の神様、面倒くさい……。




